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不定期宇宙船 No.10

片桐 哲



 ずっと気になっていたことがある。
 絵本やマンガや童話を除いて、ボクが初めて読んだ小説らしいSFは『ジップジップと空飛ぶ円盤』というジュヴナイルなのだけれど、およそこのSFに関して言及されている文章を読んだことがない。SF誌でよく行われる作家へのアンケートなどでも、この題名を見かけたことはない。そのことが不思議だった。
 で、いま思いついて、Googleで検索してみたら、一件しかヒットしなかった。それも、「昔読んだ『ジップジップと空飛ぶ円盤』は面白かったなあ」という一行だけである。まあ、こういう題名の本があって、ボク以外にもこれを読んだ人がいたということは確からしい。
 いったいこれはどういうことなのであろうか。考えられるのは、まったく評判にもならず、あっという間に書店から姿を消したのではないかということだ。
 また、日本のSF史に見当たらないということは、SFとしても、評論の価値もない駄作であったという可能性がある。
 そうかなあ? 面白かったんだけどな。

 物語の内容(記憶が曖昧なところもあるが)をつらつら思い出してみると。
 主人公の少年と出会う火星人の子供というのが、外見が白人の少年で、パイロット風のヘルメットを被り、スーパーマンみたいなパンツを穿いている、っていうのは確かに少し問題が……(^_^;
 火星の少年は当然のように英語(翻訳では日本語)を喋るわけだが、台詞の中に「ジップ」という意味不明の音が時々混ざる。これは少年が身に着けている火星語を英語に変換する翻訳機が発するノイズらしい。そこで主人公は少年をジップジップと呼ぶことになるわけだが、SFらしいアイデアはこれだけかも……(^_^;
 少年が火星から乗ってきた空飛ぶ円盤だが、主人公の住む農場の裏山に木の葉(!)をかぶせて隠してあった……(^_^;
 物語のクライマックスは、主人公が父親の仕事を助けるために、円盤を使ってでかい建設機械を密かに運ぶ場面なのだが、当然いろいろな困難に直面する。しかし、火星から地球まで飛んでくるような円盤が、わざわざ嵐の中に突入して遭難しそうになるというのは、いま考えると確かに少し問題が……(^_^;
 ジュヴナイルだからハッピーエンドなんだけど、主人公とその兄弟が夏休みになったら(!)ジップジップの円盤で火星に行く許可を父親に求めて、即OKになるっていう大団円も、予定調和が見え見えで、いまのボクならまあ恥ずかしくて書けないかも……(^_^;
 UFOが空飛ぶ円盤と呼ばれ、火星には運河があるかもという時代のジュヴナイルだからそんなものかもしれないけれど、読んでいるときの幸せだった当時の記憶が消えるわけではない。いやほんと、面白かったんだよ。

 星群会員の皆様の中で、この本を読んだことのある人はいますか?


(2007.11.1)

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