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不定期宇宙船 No.15

片桐 哲



『アーサー・C・クラーク逝く』

 歳が歳だから、驚きはしなかったが、「巨星墜つ」という言葉が少しもおおげさではないという感慨のあるニュースだった。
 クラークのSFといえば、誰でも『幼年期の終り』を筆頭にあげるのだろうけれど、ボクが最も好きなのは『都市と星』だ。これはボクの海外SFベストワンである。
 出会ったのは創元SF文庫の『銀河帝国の崩壊』のほうが先だった。リメイクと知らずに『都市と星』を買って読んだときはちょっと驚いた。
 『幼年期の終り』より『都市と星』が好きな理由は簡単だ。『都市と星』は、感情移入できる主人公の視点で書かれている。ボクは三人称多視点の小説はあまり好きではない。
 オリバー・ツイストやトム・ソーヤー、『都市と星』の主人公アルビンになりきって、物語の世界にどっぷり浸かるのが読書の醍醐味である。
 閉ざされた都市ダイアスパーの、外の世界へ通じる唯一の窓である通風口に立って、満天の星空を見上げ涙するアルビンの広い世界への憧憬は、あの時代の少年の宇宙への憧れとシンクロして、強烈な共感を覚えたことをいまも忘れない。
 『銀河帝国の崩壊』をリメイクして、『都市と星』をふたたび書いたのは、ボクと同じように、クラークもアルビンになりたかったのだろうと、かってに想像している。
 クラークの魂がアルビンとともにあらんことを……。合掌。


(2008.4.1)

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