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不定期宇宙船 No.17

片桐 哲



『続・オーディオ三昧』

 しつこいようですが、ボクはオーディオマニアではありません。ただの音楽ファンです。好きなレコードやCDを再生して気軽に楽しめればいいので、マニアのようにオーディオ装置に凝るようなことはないし、音色や音質にこだわりもないので、機器を買うときに試聴することはしません。CDプレーヤーは通販で買いました。
 ボクがオーディオ機器を買う基準はデザインです。いまだに98パソコンを使い続けているように、買った機械は壊れるまで使う主義なので、マニアみたいに頻繁に機器を買い換えるようなことはありません。ですから、長く使うために飽きのこないデザインは必要です。
 ボクには信頼する二人のオーディオ評論家がいます。管野沖彦氏と故・長岡鉄男氏です。親鸞が法然の言葉を信じるように、ボクはオーディオに関してこのお二人のいうことを無条件で信じることに決めてしまいました。悩まずにすむので楽だし(笑)。
 かつて管野氏が「良いデザインの機械は良い音がする」とオーディオ誌に書かれたことがあったので、それ以来ためらうことなくすべての機器はデザインの善し悪しで選んでいます。
 そもそもオーディオ装置は置かれる場所によって大きく音が変化するものです。販売店の店頭で聴いた音が自宅で再現されるわけはないと思っているので、デザイン優先で選ぶことにまったく不安はありません。三十年以上オーディオをやっていれば、新品の機器から初めにどのような音が出ようと、使いこなして自分好みの音に近づけることができるのは分かっているし、人間の耳はすぐに新しい音に馴染むものです。
 ただし、買ってきた機器は、部屋の中にぽんと置いてケーブルをつないだだけではたいてい良い音は聴けません。そこはマニアでなくても、機器のセッティングだけには気を配らなければ、せっかく買った機器の能力を充分に発揮させることはできません。
 セッティングについては長岡氏のやり方をそっくり踏襲することに決めているので、それぞれの機器に徹底した振動対策を施しながらセッティングを行います。
 ホスピタルグレードのコンセントなどというのも振動対策のひとつですが、各々に施した振動対策がどのようなものか、ここに書いてもあまり意味はないので書きません。ボクの書斎で上手くいった対策が、他人の部屋でも有効かは、やってみないと分からないし、他人の耳に有効と聴こえるかどうかも分からない。丁寧に調整されたオーディオ装置というものは、オーダーメイドのファッションのようなもので、調整したその人にしか良い音を聴かせてくれません。他人には似合わないものなのです。
 では振動対策をするとどうなるかというと、要するに小さい音や細かい音がよく聴こえるようになってきます。スピーカーから聴こえる音の細部が曖昧だと、なんだか気持ち悪くありませんか。小さい音や遠くまで広がる残響がきちんと聴こえると爽快です。
 小さい音がちゃんと聴こえるようになったら、後は音の輪郭がくっきり見えるようにすれば、ボクの調整は終わりです。くっきり見えるというのは、要するに音楽信号の過渡特性を改善し、音の立ち上がりを速くするということです。スピーカーは軽量コーン小口径ウーハーなので、もともと音の立ち上がりは速いほうですが、さらに改善して打楽器の音に鋭さを付け加えようというわけです。
 そのためにスピーカーケーブルを長岡氏推薦のものと交換していますが、特別なものではありません。5・5スケアのキャブタイヤケーブルという屋内配線に使われる普通の電線で、単純に太いだけのケーブルです。外径が14ミリもありますが、電線なので安価(470円/m)です。過渡特性が良くなるのは、銅線が太いので直流抵抗が減るからという簡単な理屈です。また太くて重いということは振動対策にもなり、一石二鳥。
 最近はオーディオマニアに向けて何十万、何百万円というオーディオケーブルが販売されておりますが、470円の電線も充分に対抗できるだけの実力を持っています。ただし塩ビの外皮の太いケーブルが2本、書斎の床を蛇のように這っているという光景は、あまり優雅な眺めではありません。
 確かに気持ちよい音は聴けるんだけど、オーディオ機器を良いデザインで選んだかいがないよな。ぶつぶつ……。


(2008.6.1)

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