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チンタオ便り
1回目:だだっぴろいバス路が農道に変わる日

堀州美安


 青島(チンタオ)に単身赴任して約4ヶ月が過ぎた。
 青島といっても、ガイドブックなどに載っているきらびやかな町並みではなく、街の中心からは車で一時間前後を要するド田舎である。気が遠くなりそうな、ひたすら真っ直ぐ延びる広い道路、山も丘も坂さえもなく、ただただ真っ平らな工業用地、一帯を歩くだけで軽く一時間は掛かる。しかし用地だけは準備されているが、肝心の工場はまだまだぽつぽつという感じで、草の生えた空き地ばかりが目立つ。
 もともとこの一帯は麦畑であったらしく、要するに中国方式によってある日突然一気に整地、工場を誘致する土地に生まれ変わったということらしい。
 だからなのだろう、初めて接すると不思議な光景に出っくわす。
 10頭20頭という羊を引き連れた爺さんが、道路わきの細い緑地帯や、工場用地のまばらな草地に出没している。要するに、もともとそれらの土地、草は羊たちの大事な食料庫だったのであり、権利は消滅していないということなのだろう。
 一ヶ月ほど前にはもっと面白い光景を目撃した。
 麦の収穫である。
 普段はバスも往来する(あえていえば北海道のような)だだっ広い道路が、突然農道と化す。刈り取られた麦は車に積んだ脱穀機で穂から分離され、大量の穀粒が路いっぱいに広げられる。そして計りに掛けながらの袋詰め、子供も駆り出されての作業が続く。いつもは歩行者など無視してぶっとばす車も、この時ばかりは申し訳なさそうにスピードを緩め、かろうじて通れる隙間をゆっくり抜けていく。

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 ルール未熟な車社会と化している中国においても、農業は聖なるもの、犯すべからずものということなのだろうか? よく分からない。
 少なくともここ山東省は野菜の産地であり、なかでも白菜は名産品であるとか。確かに柔らかくて美味しい。
 麦の刈り取られた畑には、即座に火が放たれる。さえぎるものとてない夕刻の空に朱色の火と黒い煙が、あちらでもこちらでも立ち昇る。要するに焼畑農業。
 さて麦の後はトウモロコシ、夏本番に向けて、ずいぶん背を伸ばしている。セミやキリギリスの鳴き声が聞こえる。でも日本のセミではないし、日本のキリギリスでもない。

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 なにしろ12億の人口を抱える中国、その片隅でしかない山東省のまたまた端っこの青島、勝手の違う環境で右往左往している日々ですが、これから不定期に「チンタオ便り」を送ります。
 ちょっとでも、へーっ!と感心してもらえるネタを探して。

2009年7月26日

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