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チンタオ便り
2回目:中国語の高きハードル

堀州美安


 四ヶ月めになるというのに、いっこう中国語(漢語)が上達しない。
 仕事の上では通訳に頼ってしまうせいもあるが、一番の原因は、書かれた文章はだいたい分かってしまう、そして読めてしまうというところにありそうだ。逆に言えば、漢字で書けば、だいたいは伝わる。つまり中途半端な筆談である。
 そう、世界広しといえども、漢字を日常的に使っている国は中国と日本だけなのだ。そもそも古代の日本が大陸から輸入した文字なのだから、成り立ちは同じなのだ。読み方にしたって、ほんの一部を除いて全く違うけれど、似てはいる。こっちで実際に中国語をかじっていると、日本語のうち音読みの漢字は中国語の最も遠い方言だと思えてくる。ちなみに広大な中国のこと、北と南ではまったくといっていいほど発音が違うらしい。だから、中国語の映画でも字幕がついてるのだとか(まだ観る機会はないが)。
 書かれた文章はだいたい分かると冒頭に記したけれど、実はここに悩ましき簡体字という化け物が立ちはだかる。日本で言う略字、源は同じだけれど略し方が違う。あちこちで「手机」という文字に出っくわす。「てづくえ」って何だろうと思って訊ねたら携帯電話のことだった。「机」という文字は「機」の簡体字であったのだ。摩訶不思議な簡体字はたくさんあるけれど、ここで変換しても文字化けするだけだろうから、なかでも最も悩ましいシンニュウの例を画像で示しておこう(何故だかシンニュウは簡体字が多い)。どれも一見似すぎていてなかなか頭に入らない(記憶力はとりあえず問わないことにして)。

sinnyu


  簡体字と並んで摩訶不思議なのが外来固有名詞の漢字表記。これも実際に目撃したものに限って表にして貼り付けておこう。このあたりの話題はオリンピック時にも盛んに流されていたので改めて驚くには値しないと言いたいところだが、実際に当て字マクドやケンタッキーを目の当たりにすると、中国の街に立っていることを実感する。

ateji


 考えてみれば、かつての日本だって同じことをしていた。紐育だとか伯林だとか仏蘭西だとか伊曽保物語だとか。カタカナを本格的に外来語表記に当てるようになったのはそれほど古いはなしではない。いまだに英国、米国があたりまえに使われている。
 困るのは当て字が決して元の発音をなぞっていないことだ。ジャスコはまだ近いから通じるけれど、カルフールなんていっても全く通じない。人名にいたってはお手上げだ。オバマはまあ上出来だけれど、布什、克林頓となると誰のことやら。ブーシー、カーリンドゥンとでも読むのかな? そう、米国前および前々大統領なのでした。
 おまけにもうひとつ。「雀巣」で表される食品メーカーは? まず分かりっこない、なんとインスタント・コーヒーで有名なNestleなのでした。読みはチュエシャオてな感じ。何故これがネスレなのかというと、nestleには巣ごもるといった意味があるから。いわば超級市場的ネーミングの珍しい例でした。

2009年8月11日

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