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チンタオ便り
5回目:中国パソコン事情(続)

堀州美安


 前回はノートPCの突然起動不能にまつわる小恐怖について書いた。
 あの時点で完全復活したはずだったのに、それからわずか二週間ほどの間に二度まで同じ症状にみまわれた。どちらもシステム・ファイルの一部が破損したという現象である。なんたらかんたらいうファイルをインストールし直してくださいというエラーメッセージが出るが、どうやって再インストールしろというのか? まったくマイクロソフトには……いや、やめとこう。結局二度とも四枚組みのバックアップCDを使って初期化するしか手がなかったわけだけど、少なくともこれで元通り動くようになるのだから、根本的に壊れてしまったわけではなさそうだ。それにしても、この不安定さには泣かされる。
 いやいや、泣き言に紙数を費やしているときではない。中国PC事情である。
 まずもって、自分で書いているこのチンタオ便りをネットで見ることができないのだ。つまり星群のホームページは何度アクセスを試みても接続できない。「ページを表示できません」という無愛想なメッセージが出てくるばかりだ。要するに中国当局による検閲である。U−TUBEが見られないのは分かるとして、なぜ星群なのだ? どこかに当局の癇に障るキーワードが埋まってでもいるのだろうか?
 僕の「易経への道」もまた見ることができない。(ときどき発作的につながることはあったけど。)まあ、易経は孫文以来否定されてきた儒教の経典だから、そうなのかなと思わないでもなかった。その「易経への道」へリンクを張っていただいているために目を付けられるのかなと、当初は思ってもみた。しかし、同じくリンクを張ってくれている福崎録氏の「似顔絵もうそう館」は実にスムーズにつながるから、そういうわけでもなさそうだ。
 かと思うと、頼みもしない、つまりアクセスしていない中国語のサイトに突然つながることがある(飛び込んで来るという方が感覚的には正しい)。いつも決まって中国版検索サイトなのだが、まるでマイクロソフトのような狼藉ぶりだ(また言ってしまった)。検閲とは逆に国家優遇策としてフリーにしているとしか考えられない。
 今回のトラブルも、僕としては中国菌(どんな優れたセキュリティ・ソフトでもキャッチできない)にやられたと思っているわけだ。決して9800円の中古PCのせいではない!
 ともあれ、ともあれ、「中国ネット検閲の謎」を解明できれば、相当に面白い本が書けるだろうななどとも思う。(まあ、わたくしごときには、とうてい無理ではございますが。)
 
 この原稿を書いているたった今、実はネットがつながらない。昨夕からだから、ほぼ二十四時間経過している。これにも原因はいろいろ考えられるのだけれど、ひとつは勤務先の日系企業が日本の親会社との間で国際的LAN(?)を構築しようとしていて試行錯誤中なのだが、ここへVPSとかいう暗号化システムを組み込もうとすると、たちまちスピード・ダウン、実に不安定になるのだ。たぶん今回の接続不能もそのあたりだとは思うのだが、絶対と言い切れないところが、また中国なのである。(水や電気と同様、ネットも突然供給ストップとなる。まあ、そうそうはないけど。)
 
 実は、ずっと書き渋ってきた題材がある。
 PC盗難事件だ。
 7月11日だから、ほぼ五ヶ月も以前の出来事だ。
 当日は土曜日、こちらでは珍しく、どしゃぶりの雨が降っていた。一週間の仕事を終え、区切りのビールを開けてそろそろ寝ようかと思っていた矢先、盗難の知らせで覚醒させられた。
 僕の所属部署で使っている五台のうち四台が被害にあったのだ。PCそのものは昔と違って安いものだが、そのうちの一台には五百万円見当のソフトが入っていた。(これは後の話だが、ハードの損害は保険の充当も容易だが、ソフトは簡単にいかない。まだ未決着のままである。)
 当初はさすがに落ち込んだ。自らの責任もそうだが、本格的に赴任して、慣れない環境でいよいよこれからと思っていた矢先だったから。少しずつ集めていた情報やデータもいっしょくたに持っていかれた。
 しかし、責任のほうは、まったくお咎めなし。一言でいえば、こちらで盗難事件は当たり前だということ。特に雨降りの週末は要注意だということを“経験者”から聞かされた。某S警備にも問題があった。警報を誤作動と判断してスイッチを切っていた。犯人の進入口と推定される境界柵もまったく防備の呈をなしていなかった。犯行の手順を追ってみる限り、内部に手引きした者がいるはず。等々。
 しかし、まあ、ショックではあった。
 で、面白いことに、盗んでいくのは、PC本体と液晶モニターのみ、マウスとキーボードは引き抜いたまま卓上に放置されているのだ。軽い物だからついでに持っていけばいいのにと思うのだが、それらは値打ちがないのらしい。
 そんな事件があって約五ヶ月経ったが、警備体制が強化されたかというと、一部は改善されたが、抜本的というにはほど遠い。
 経済の急成長とは裏腹に、インフラはいっこうに進まないのが現状である。(僕は中国時間と呼んでいるが、こちらにいると、日本が異常にせっかちなのかなとも思えてくる。)
 
 今日、近くの街までいつものバスに乗って買い物に行ったら、ツリーとサンタが出迎えてくれた。スーパーのレジ嬢も、頭に赤いサンタ帽を乗せている。ジングルベルのメロディーが店内に流れている。中国のメリー・クリスマス、なんともしっくり来ない。ひとこと、アンバランス!

santa
 
 とこうしているうちに、ようやくネット開通、ではいざ送信!
 

2009年12月6日

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