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チンタオ便り
6回目:限電

堀州美安


  世界的な寒波だという。
 テレビも新聞もない中国の田舎生活でも、それくらいの情報はなんとなく入ってくる。
なにしろ青島からタクシーで一時間ばかりの我が職場も連日寒さに震えない日はない。工場内こそエネルギー浪費型産業であるからして、まあたいしたことはないのだが、食堂までの五十メートルばかりを風に身を晒すだけで冷え切ってしまう。雪こそめったに降らない土地だけど、毎日携帯に入ってくるニュース(もちろん中国語、頼みもしないのに勝手に飛び込んでくる)によると、今晩から明日にかけては−12から−4℃と出ている。
 昨日=1月11日は元旦以来の休みだったので、近くの街まで買出しに出かけた。毎度お世話になっている1元(約14円)バスに乗ってである。池も川も、水という水はかちんかちんに凍っていた。帰路、バス停からの徒歩15分はまさに耳がちぎれそうだった。

冬景色1冬景色2

 いつも街からの帰りはぎゅうぎゅうに込み合うのだが、この日はやけに空いていた。それで思い出したのだ。今日は月曜日、平日なのだった。
 なぜなのか? これこそ限電のせいなのであった。
 限電とは何ぞや? 字面からだいたいは想像がつくと思うが、要するに電気の使用制限である。日本でいえば節電勧告といったニュアンス、生活用電気は構わないが、動力系はストップすべし! つまり機械は動かすべからずである。中国は220Vと380Vの2系統があるが、高圧に当たる380Vで動かす機械は全部お休みさせなさいということである。
 最初にそういう話が来たのが8日金曜日の朝一、毎週水曜ということだった。そこで急遽会議で対策を練る。元旦以来休みを取ってないから、とりあえず日曜は休んで、水曜は清掃と勉強会に当てようと決めた。ところが、同じ日の午後、水曜は取り消し、月曜と火曜に変更と言ってきたのだ。仕方なく日曜までがんばって、月曜休み、火曜を清掃と勉強会というぐあいになったしだいなのだ。
 では、なぜこんなことになったのか。寒波のせいなのである。もっと具体的に言うと、北京の電力不足の余波というわけ。聞いた話では、石炭不足で、北京市民は電気で暖を取っている。天然ガスも不足している。電気が足りない。北京とは(日本の感覚では)遠く離れた山東省の田舎町にまで、電気を廻せというわけである。
 こちらの発電事情など知りようもないが、あちこち小まめにやってるらしい。たぶん小まめにやってるそれぞれの発電所に限電割り当てみたいなのがあるのだろう。近隣地区でも、すでに週3日の勧告を受けているところもあれば、まだ何にも言ってきてない所もあるらしい。(そこはそれ、人治国家で名高い中国のこと、お金がものをいってる可能性はあると思う。)
 風が吹けば桶屋が儲かるじゃないが、北京が風邪をひけば、青島の工場がストップするなのであった。
 当分――おそらく春の到来まで、この状況は続きそうだ。いつまた週3日と言ってくるか知れたものではない。ここしばらく停電も断水もなかったから、ほんと久しぶりの“中国体験”といえるかもしれない。
 でも、2月14日の旧正月まではもう少し、遠くから来ている中国人スタッフは早い者では1月の末から帰省の旅に出る者もいる。飛行機など使えるのは一部の幹部スタッフだけだから、最低片道3日をかけての汽車あるいはバスの旅なのだ。(ちなみに、こちらでは汽車はバスのこと、汽車は火車という。)どっちにしたって、気持ちはどんどん故郷へ、心ここにあらず状態が日増しに増す時期ではあるのだ。
 で、我が工場の正規の休みも2月8日から19日という長期に組まれた。そのためもあって、新正月の休みは1日のみであったわけだ。
 僕も含めた日本人スタッフも8日に帰る。こちらは飛行機に乗ればあっという間の関空である。10月の国慶節以来の帰国、日本はどんな顔で迎えてくれるだろうか?

2010年1月12日

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