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チンタオ便り
8回目:少しは退屈な仕事の話でも

堀州美安


 とうとう中国生活も一年を超えた。
 ここらで退屈な仕事の話でもしてみようか。

 こちらで働いている会社は100%日本資本、独資と呼ばれる形態である。こちらへ来るまでは合弁しかありえないのかと思っていたが、そうではないということが分かった。独資にするメリットというのは、残念ながらようやく二年生の僕には判断しようがないけれど、デメリットだけははっきりしている。法治国家ではなく人治国家という表現は、中国経済事情を語るほとんどの書物で出会うことができる。つまり、“袖の下”がものをいうシステムということだ。ここらへんのヤヤコシサは中国経験豊富な先輩諸氏からの間接情報ばかりではあるけれど、さもありなんなのではある。とりわけ独資は何かと目を付けられやすい、政府要人との折衝係を設ける企業もあるということだ(誰が本当の“要人”かを見極める能力も必要)。
 残念ながら(?)いま勤める独資企業は、そのあたりの気配りがイマイチである。詳しいことは書けないけれど、中国でまともに生産活動をしようと思うと、相応の“潤滑金”が必要だということなのだろう。
 
 こちらへ来て任される職務=日本で長年やってきた経験知+αの技術指導・・・とまあ、とりあえず考えていた。問題は中国語の壁をどうするかだけだと・・・しかしまあ、一年が過ぎて振り返ると、それ以前の問題が大半だったと、ただただ核心部のはるか外縁で右往左往していたのがこの一年だったと思い知らされる。
 半年はかかるな、いや一年かな? 赴任当初、紹介を受けた取引先の人々は、口をそろえてそうアドバイスしてくれた。目の前に蝶々が飛ぶようになったら危ないですよ、そう忠告してくれる方もあった。もちろん日本人である。

 業種はとりあえず繊維関係の工場としておこう。あまり詳しく書くと、たぶん支障もあるだろうから。
 多品種小ロット、カンバン方式、エトセトラ&エトセトラ、今やってる仕事はばかばかしいほどに〈日本〉を引きずっている。その周辺で聞こえてくるのは某ユニクロのひとり勝ち、こちらは今の時代では異例のマスプロである。中国でやるなら、このくらいの規模でやらないと無理なのだが、追随するメーカーは今のところない。バブル以降、最も汚い日本語のひとつである勝ち組負け組の構図である。
 中国で仕事をしていて気が引けるのだが、〈チャイニーズ・フリー〉を実践しようとした人がいて、数日で挫折したという記事を読んだ記憶がある。これと同じで、今、日本で某ユニクロ・フリーもけっこう難しいのではないだろうか? 僕自身、今年は寒い四月中旬まで日本から持ってきたフリーズのお世話になった。
 日本人の品質に向ける意識は、おそらく世界でもトップ・レベルだろう。それを一言で表すなら、きれい好き、潔癖症と言えるかもしれない。賞味期限など擬装事件が続出しようと、基本のところではなおかつそうだと思う。ただ、あまりに細かい所にこだわりすぎて、全体が見えなくなるという欠点もそのままだけど。
 
 ・・・と、ここまで書いて、また数週間ほったらかしにしてしまっていた。どうも溜まるのは疲労感ばかりで、休みの日ワープロに向かう気力がなかなかわかないというのが実態。(日本にいたって同じじゃないのという声が聞こえてきそうだが、でも違うのだ。)
 先週は青島にオープンしたばかりの某ユニクロへ行ってきた。日本とまったく同じスタイル、真向かいには某無印良品の近日オープンの案内もあった。立地はオリンピックのヨット競技場の近く、いわばハイソサイエティのゾーンである。だからなのか、オープン特価セールの最終日にしては人出はいまいちだった。一緒に言った連中は、今夏のターゲット商品を買っていたけれど、僕はついに何も買わなかった。
ユニクロ

 某ユニクロに某無印、これらが今の日本を代表するっていうのは、なんだか寂しい。
 ついでにいうと、中国も完全に車社会、日本人からするとムチャクチャな運転で乗り回している。かつての自転車の群れなどまったく見かけない。バイクは多い。ミゼットのような三輪車も健在。もちろん車はこちらでも高い。ガソリンも決して安くない。でも、いったん車に乗り出したら元に戻れないというのが、結局人間のさがなのでしょうかね?
 意外にトヨタは少ない。ニッサンの方が多いかな? ホンダ・アコードもまあまあ。タクシーはほぼ例外なくワーゲン。プジョーやシトローエン、ビュイックなんてのもよく見る。トップシェアがどこなのかよく分からないけれど、ヒュンダイは多いですね。
 ・・・とまあ、とりとめのないおはなし、これが一年を過ぎた近況でございます。

2010年5月16日

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