毎年吉例。1973年度ヒューゴー賞/ネビュラ賞特集である。この号の海外勢5編はすべてその関連の作品である。受賞作4編と2席1編が掲載されている。
「トラジェディ」ヒューゴー/ネビュラ中短編賞受賞。難解な作品。よくわからなかった。読むのが苦痛。
「愚者の楽園」ヒューゴー賞短編賞受賞。彼はうすのろでバカ。でも、うすのろでもバカでもない機械を発明することができる。ラファティである。
「ある決断」ヒューゴー賞短編賞受賞。彼の息子は重度の情緒障害児。かねてよりニコルソン博士から勧められていることがある。その勧めを受け入れることを決断する。カズオ・イシグロの「私をはなさないで」と底でつながっているテーマ。
「変革の時」ネビュラ賞短編賞受賞。宇宙船に乗って「彼」が帰って来た。本物の地球人の男性の「彼」が。
「星虹の果ての黄金」ヒューゴー賞中編賞第2席。アルファケンタウリ・アレフ星に向かう8人。その8人は人類を代表するエリート。エリートたる彼らの真の目的を知っているのは責任者で発案者のネフハウゼン博士だけだ。
以上、5編がヒューゴー賞/ネビュラ賞特集の作品である。小生(雫石)が読んで一番面白かったのは受賞作ではない「星虹の果ての黄金」宇宙SFにひとひねりしてある。いかにもなアイデアストーリーであった。ヒューゴー賞受賞作ネビュラ賞受賞作ということは、アメリカのSFファンたちとSFのプロにうけた作品ということなのだろう。しかし、日本のSFファンたる小生にはうけなかったようだ。とはいいつつも、この結果が1973年のアメリカSF界の成果かというと、たぶんそうではないだろう。ヒューゴー賞は日本の星雲賞のお手本となった賞。当該年度のSF大会参加者の投票によって決まる。SF大会参加者がまっとうに真っ正直に優れたSFに投票しているのであろうか。疑問である。これは日本の星雲賞も同じ。星雲賞受賞作に違和感を感じることも多い。最近では日本のネビュラ賞たる日本SF大賞も同じ。
さて、特集企画以外の2編は日本人作家。
「ハロー商会」「クロマキー・ブルー」でハヤカワSFコンテスト1位入選した川田武の受賞第1作。急に絶好調になって非常に良い仕事をしはじめる。急に勝ち始めた将士。急に良い演奏をするようになった指揮者。これらはみんな「ハロー」がワザしている。
「流氷民族」新鋭山田正紀の新連載の1回目。謎の美少女がいきなり、車の前に飛び出した。ひいてはいない。でも、彼女は昏睡状態から覚めない。どうも彼女は普通の人間ではないようだ。面白い。最初から快調である。さすが山田正紀はこのころからうまかった。
(2015.8)