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SFマガジン思い出帳 第101回

雫石 鉄也







1974年10月臨時増刊号 No.191(特集:世界は破滅する)

掲載作

聖夜
福島正実
21世紀エルドラード
田中光二
跛行文明
木々高太郎
宇宙ゴミ戦争
横田順彌
闇黒の永劫
風見潤訳 ジョン・ラッセル・ファーン
闇に至る道
小尾芙佐訳 ロバート・シルヴァーバーグ
花園の新しいリンゴ
矢野徹訳 クリス・ネヴィル
本日の講義
鎌田三平訳 ジョエル・ナイダール
素敵な売女の最後の日
谷口高夫訳 ロバート・P・ミルズ
最初で最後の男
大野二郎訳 ハーラン・エリスン
神々の食料
藤井裕三訳 アーサー・C・クラーク
最後の夜明け
浅倉久志訳 フランク・リリー・ポラック
レポート:破滅
異常気象と食糧危機―それに対処した日本人の知恵
筑波常治
権力と終末論
河原宏
神仏、ヒットラー、公害―思想史に見る終末論
伊東守男
世界の退屈な終末
伊藤典夫
破滅がいっぱい〈特別版日本SFこてん古典〉
横田順彌
破滅のメカニズム
岡田英明
破滅の彼岸に―幻想小説に見る終末のイメージ
荒俣宏
コミック
スプーン曲げなんてインチキだ〜!!
石森章太郎
箱舟はいっぱい
藤子不二雄
特別大図解
破滅への7章
野田昌宏&CAS

 この号は破滅もんの特集である。336ページ破滅終末絶滅でいっぱい。小説が12本、評論エッセイレポートが7編、漫画が2本。まっこと読みごたえのある号であった。
 この号は1974年の秋に出た。このころ日本ではちょっとした終末ブームであった。1973年「日本沈没」小松左京「ノストラダムスの大予言」五島勉などが刊行され大ベストセラーとなり、映画化もされる。また筑摩書房から「終末から」という雑誌も出た。この雑誌は「吉里吉里人」井上ひさしが連載された雑誌であった。石油ショック、公害で将来に希望が持てなくなったがゆえの終末ブームであったろう。こういう世情をSF専門誌として無視するわけにはいかなくなったのか、はたまた商業誌であるからして「売れる」と判断してなのか判らぬが、少し遅まきながらSFマガジンで終末破滅特集をやったしだい。
 読み切りの小説が12本も載っているわけだから、これは、もう、満腹である。
「聖夜」力作。荒廃した日本。食料不足。日本は国連軍の管理下に置かれた。外国の軍隊に反感を持っている者多し。ある反抗計画が進行している。実は・・・。
「21世紀エルドラード」人工過剰食料不足。あてがいぶちの配給では生きていけん。巨大企業が画期的な新事業。冷凍睡眠。目が覚めたときには、その企業で働く約束。睡眠に入る前の1週間。好きなものを腹いっぱい食い、好きなことができ、望む欲望はすべて叶えてくれる黄金の1週間がある。ところが何か秘密がある。
「跛行文明」昭和13年発行の「科学技術主義」誌からの転載。破滅もんというより未来もん。
「宇宙ゴミ戦争」お釜が降ってきた。ゴミがいっぱい詰まったお釜が。世界中で、いや宇宙中でゴミを使った「パイ投げ」がはじまった。奇絶!怪絶また壮絶!!
「闇黒の永劫」精神と物質。精神=物質。精神のエネルギーを開放する実験。その実験の影響で植物が地球から消えていく。マッド・サイエンティストの実験が世界を滅ぼす。
「闇に至る道」「戦争」は終わった。廃墟のニューヨークは自給自足不可能。命の綱のトレントン・オアシスからの食糧供給が停止した。
「花園の新しいリンゴ」増えては困るモノが増える。減っては困るモノが減る。破滅SFというより、「困った」SF。
「本日の講義」人類を観察する異星人。人類は実験用マウスか。
「素敵な売女の最後の日」アーサー・フルブライトは女が欲しい。世界が終わる前に。
「最初で最後の男」世界最後の部屋は世界最初の宇宙船の中にある。それは世界最後の宇宙船でもある。決して飛び立たない宇宙船だが。
「神々の食料」お気づきでしょうが、食糧の原料はあれ。「21世紀エルドラード」と底でリンクしてるといったらネタばれになる。
「最後の夜明け」宇宙の中心の巨大恒星の光が地球に到達。暑い熱い。
 と、まあ、実にバラエティに富んだ「破滅」で、読者のご機嫌をうかがってくれる。このころは「終末」といいつつも、「終末」を考えることによって、「終末」の向こう側=未来を考えるという、ある種、明るさのある「終末」「破滅」であった。「世も末」だと思いつつ、未来はきっと今より良いという暗黙の了解があった。ところが、今は、地球が有限であることを考えた上で、未来を考えなくてはならない。地球が有している資産が増えることは絶対にない。地球が養える人口も限りがある。人口に限りがあるから、資本主義における「市場」にも限りがある。経済も無限に成長するわけではない。
 かような状況にもかかわらず、21世紀の今、「終末」ブームではない。別にブームでなくても、本物の「終末」が来ることが判ったからだろう。
 人類としての「終活」をそろそろし始めたらどうだろう。

(2015.9)
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