この号は破滅もんの特集である。336ページ破滅終末絶滅でいっぱい。小説が12本、評論エッセイレポートが7編、漫画が2本。まっこと読みごたえのある号であった。
この号は1974年の秋に出た。このころ日本ではちょっとした終末ブームであった。1973年「日本沈没」小松左京「ノストラダムスの大予言」五島勉などが刊行され大ベストセラーとなり、映画化もされる。また筑摩書房から「終末から」という雑誌も出た。この雑誌は「吉里吉里人」井上ひさしが連載された雑誌であった。石油ショック、公害で将来に希望が持てなくなったがゆえの終末ブームであったろう。こういう世情をSF専門誌として無視するわけにはいかなくなったのか、はたまた商業誌であるからして「売れる」と判断してなのか判らぬが、少し遅まきながらSFマガジンで終末破滅特集をやったしだい。
読み切りの小説が12本も載っているわけだから、これは、もう、満腹である。
「聖夜」力作。荒廃した日本。食料不足。日本は国連軍の管理下に置かれた。外国の軍隊に反感を持っている者多し。ある反抗計画が進行している。実は・・・。
「21世紀エルドラード」人工過剰食料不足。あてがいぶちの配給では生きていけん。巨大企業が画期的な新事業。冷凍睡眠。目が覚めたときには、その企業で働く約束。睡眠に入る前の1週間。好きなものを腹いっぱい食い、好きなことができ、望む欲望はすべて叶えてくれる黄金の1週間がある。ところが何か秘密がある。
「跛行文明」昭和13年発行の「科学技術主義」誌からの転載。破滅もんというより未来もん。
「宇宙ゴミ戦争」お釜が降ってきた。ゴミがいっぱい詰まったお釜が。世界中で、いや宇宙中でゴミを使った「パイ投げ」がはじまった。奇絶!怪絶また壮絶!!
「闇黒の永劫」精神と物質。精神=物質。精神のエネルギーを開放する実験。その実験の影響で植物が地球から消えていく。マッド・サイエンティストの実験が世界を滅ぼす。
「闇に至る道」「戦争」は終わった。廃墟のニューヨークは自給自足不可能。命の綱のトレントン・オアシスからの食糧供給が停止した。
「花園の新しいリンゴ」増えては困るモノが増える。減っては困るモノが減る。破滅SFというより、「困った」SF。
「本日の講義」人類を観察する異星人。人類は実験用マウスか。
「素敵な売女の最後の日」アーサー・フルブライトは女が欲しい。世界が終わる前に。
「最初で最後の男」世界最後の部屋は世界最初の宇宙船の中にある。それは世界最後の宇宙船でもある。決して飛び立たない宇宙船だが。
「神々の食料」お気づきでしょうが、食糧の原料はあれ。「21世紀エルドラード」と底でリンクしてるといったらネタばれになる。
「最後の夜明け」宇宙の中心の巨大恒星の光が地球に到達。暑い熱い。
と、まあ、実にバラエティに富んだ「破滅」で、読者のご機嫌をうかがってくれる。このころは「終末」といいつつも、「終末」を考えることによって、「終末」の向こう側=未来を考えるという、ある種、明るさのある「終末」「破滅」であった。「世も末」だと思いつつ、未来はきっと今より良いという暗黙の了解があった。ところが、今は、地球が有限であることを考えた上で、未来を考えなくてはならない。地球が有している資産が増えることは絶対にない。地球が養える人口も限りがある。人口に限りがあるから、資本主義における「市場」にも限りがある。経済も無限に成長するわけではない。
かような状況にもかかわらず、21世紀の今、「終末」ブームではない。別にブームでなくても、本物の「終末」が来ることが判ったからだろう。
人類としての「終活」をそろそろし始めたらどうだろう。
(2015.9)