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SFマガジン思い出帳 第104回

雫石 鉄也







1975年1月号 No.194

掲載作

征東都督府(第3回)
光瀬龍
ザ・クライム 
山野浩一
荒野
深町真理子訳 ゼナ・ヘンダースン
時と場所の問題
浅倉久志訳  ラリー・アイゼンバーグ
サンタ条項
伊藤典夫訳  ロバート・F・ヤング
流氷民族(最終回)
山田正紀
決戦・日本シリーズ
かんべむさし
大河漫画
鳥人大系 第17章 ラップとウィルダのバラード
手塚治虫
日本SFこてん古典 第22回 
なぜか昭和二十九年のSF
横田順彌
連載評論 幻想小説の方へ 
夢の言葉・言葉の夢 第16回 運命
川又千秋
SFスキャナー
「手を上げろ!人間」
川又千秋
思考の憶え描き 連載21
望遠鏡計画
真鍋博
SF三大コンテスト アート部門 入選作発表

 この号はべつだんなんの特集企画もなく、連載2本、読み切り短篇5本が掲載されている。こういうルーティンワークの通常号に、その雑誌の真の実力が現れるのではないか。そういう意味からも、この70年代のSFマガジンは充実していた。それに比べて2015年の今のSFマガジンは質が落ちた。特に塩澤快浩氏が編集長に復帰してからがひどい。もともとひどい上に隔月刊になってからの劣化ははなはだしい。隔月刊のクセにやたら連載が多い。読み切りの短編が少ない。アニメや映画とのタイアップちょうちん企画で誌面の多くを埋めている。SFマガジン、どないかする必要あり。
 さて、劣化SFマガジンの悪口はこのへんにして、充実していたころのSFマガジンを紹介しよう。
「決戦・日本シリーズ」かんべむさしのデビュー作である。今年の2月にかんべさんの講演を聞いたが、そのおり、かんべさんご自身はこの作品に関して「恥ずかしい。いま読み返すとアラばかり」といっておられたが、小生、40年ぶりに読んだが、確かにギャグが滑っている所も多少あったが、ご本人がいうほどアラはなかった。お話はご存知の方も多いと思う。阪神VS阪急の日本シリーズ。勝った方の電車がファンを満載して負けた方の線路を、どんちゃん騒ぎしながら走る。
「征東都督府」第3回。樋口一葉登場。一葉の知人に不穏当な小説を書いている者がいる。日清戦争で日本が勝ったという架空戦記モノ。近藤勇の命を受けて、土方や山崎、沖田がそれを探る。
「ザ・クライム」山登りの話。これ、SFだろうか?
「荒野」おなじみピープル・シリーズ。例によってアメリカの田舎。新任の女性教師がやって来る。で、教え子たちというのが例によって例の連中。
「時と場所の問題」人類史上初めて、世界は永続的な平和のチャンスをつかんだ。
「サンタ条項」悪魔に願い事。リクエストは「サンタクロースを存在させてくれ」悪魔は聞く。「お前だけにか」
「流氷民族」最終回。亜人類200人を乗せて、巨船クララが行く。追跡するはアメリカ海軍と海上自衛隊。  
「フォーカス オン」のページで、チャールトン・ヘストン主演の「大地震」を紹介している。公開当時はセンサラウンド方式の大迫力の音響装置で上映された。小生も今はなき大阪は梅田のOS劇場で観た。映画そのものはどうということのないパニック映画であったが、地震のシーンはさすがにセンサラウンド方式すごい音響でたいした迫力だった。映像もなかなかの迫力であった。で、まさか、これから20年後、この映画よりも大きな地震に自分が遭遇するとは思わなかった。
 1995年の阪神大震災。実際の大地震は、もちろんセンサラウンド方式の音などしない。とつぜん上下にガタガタと突き上げられ、揺れがおさまると、シーンと静寂が。そしてガヤガヤと人の声が聞こえた。
 この映画で、高速道路が倒れるシーンがあるが、当時は日本の高速道路は倒れないといわれていた。ところが阪神高速が横倒しになったのはご承知のとおり。小生宅はあの現場のすぐ近く。実際に阪神高速が倒れるのを見た。映画は現実にはかなわないのだ。  

(2015.12)
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