背中に「総力特集・日本作家ベストセレクション」とある。このころのSFマガジンの2月号は、大幅に増ページして日本人作家だけの特集をやっていた。この号もその企画である。ご覧のように総勢20人のSF作家が登場している。
第1世代の作家でここに出ていないのは平井和正ぐらいではないか。平井はウルフガイの書き下ろしで忙しかったのではないか。筒井は小説ではなくエッセイでの参加。筒井は新潮社と専属契約を結んでいたので、新潮社以外には小説は書けないのでこういう形での参加となったわけ。今から40年前は、早川が声をかければ日本のSF作家は、こうしてはせ参じたのだ。そういう時代であった。また、この中に女性作家はいない。鈴木いずみは登場する前。山尾悠子はSFコンテストで「仮面舞踏会」が最終候補作に残っている、という段階であった。この時点でSFマガジンに小説を掲載した女性作家は、小生の記憶に間違いがなければ藤本泉だけだったのではないか。
では、掲載作を見て行こう。
「お糸」天保7年の話。天保というと大飢饉があったはずだが、この話では飢饉はない。江戸の空も海もきれい。天狗船が空を飛び、錦絵鏡が映像を映す。人はマゲを結ってるようだが、どうも今につながる天保ではないみたい。
「照り返しの丘」司政官シリーズ。惑星テルセン。なんということもない地球型惑星。住民は滅んだ。ロボットが生き残っている。S―テルセアと呼ばれるロボットたちとどう折り合いをつけるかが、この星の司政官の仕事だ。
「征東都督府」謎の樋口一葉登場。彼女はほんとうに一葉か?元、かもめ、笙子といった光瀬時間モノのおなじみがそろった。
「辻褄」人が消えるところを見た。友人が入院している病院はなにか変だ。福島は「SFの鬼」ともいうべきSF者だが、ご本人の作品はSFっけは少なく文学的なモノが多い。
「ドラゴン・トレイル」エーリアン・メモ第1作目。「観察者」ジョン・エナリー登場。
「きょうという日」ショートショート。きょうという日は過去とどうつながっているのか。
「逆上コンサルタント」1974年12月の「用語コンサルタント」に続くコンサルタントもの。有利な逆上の仕方を指南する。
「主婦と錬金術師」若い貧乏な絵描きがパリで旅行中の年上の女と知り合った。渡辺淳一ではない。荒巻義雄である。
「折り紙宇宙船の伝説」矢野徹の代表的な短編。山村の狂女が哀しい。ちょっとエロチックで幻想的。
「円盤がいっぱい」特定のカメラと特定のフィルムの組み合わせた場合、UFOが撮影される。
「襲撃のメロディ」巨大電子頭脳へのレジスタンス。目次にはなんとも書いてないけどこの号が前編。山田正紀は「神狩り」がデビュー作だが、この作品が1作目。「宇宙塵」ではこの作品の方が先と記憶する。
「実力行使」完全全自動。すべての業務が機械でできるようになった。労働者は不要になった。さて、労働組合はどうした。
「亜空間要塞の逆襲」前作「亜空間要塞」の登場人物が作者を訪ねてくる。
「鳥類観察日記」いろんな鳥がわが家の庭に来る。音符鳥、トリオ鳥、タマネギ鳥などなど。
「エーテル」エーテルってなんぞいや?
「夜のバス」夢書房モノ。
「宇宙船『オロモルフ号』の挑戦」宇宙の深淵めざしてオロモルフ号が飛ぶ。
「宇宙の呼び声」グローバル・クイズの優勝者の望み。宇宙へ出たい。
「時間遡行機5号カプセル」イタコのかわりにタイムマシンを使って死んだ人に会う。タイムマシンの営業運転。
「幼年期の中ごろ」昔はSF作家どうしは仲が良かったんだな。
総ページ数392ページ。小説が19編。さすがに読みごたえがある。これ1冊で充分に満腹する。これで670円。1編あたり35.3円。最新号2016年2月号。読み切り短篇が2編。1200円。1編あたり600円。20倍近い価格上昇である。で、面白さも20倍になったかというとそうではない。
ところで、「鳥人大系」「第1部終わり」となっているが、第2部がどこかに発表されたということは寡聞にして聞かない。もし「鳥人大系」第2部が発見されたら大発見ではないか。
(2016.1)