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SFマガジン思い出帳 第17回

雫石 鉄也







1969年10月臨時増刊号 No.126

この号の掲載作

 星殺し
小松左京
 フル・ネルソン
筒井康隆
 月っ子の恋
福島正実
 悪徳学園
平井和正
 シャッター・チャンス
久野四郎
 OH! WHEN THE MARTIANS
野田昌宏
  GO MARCHIN IN…
 
 ほら男爵の地下旅行
星新一
 空は船でいっぱい
シオドア・スターション
 目撃者
エイヴラム・デヴィッドスン
 あほうどり
マック・レナルズ
 雪つぶて
ロバート・F・ヤング
 金星関係書類
リチャード・ウィルスン
 黒い河の彼方
ロバート・E・ハワード
 地獄のササイドン
クラーク・アシュトン・スミス
 ドラゴン・ムーン
ヘンリイ・カットナー


 ご覧のようにこの号は盛りだくさんである。この中で小生は平井和正の「悪徳学園」を人気カウンター1位に上げている。
 1969年11月に立風書房から平井和正の「狼男だよ」が出ている。この立風版「狼男だよ」は「ウルフガイシリーズ」の最初の単行本。この「悪徳学園」は「狼男だよ」より先に発表されたことになる。というと「悪徳学園」は「ウルフガイシリーズ」で、読者の前に現れた最初の作品。ご承知のように、「ウルフガイシリーズ」は2系統あって、少年犬神明が主人公のものと、大人の犬神明が主人公のもの。この「悪徳学園」は少年が主人公。後に映画化され松田優作のデビュー作となった「狼の紋章」の原型はこの「悪徳学園」だろう。
 小生、この「ウルフガイシリーズ」はファンだった。2系統とも全作品を読んだ。なぜこんなに小生はこのシリーズにひかれたのか。作者平井和正の情念のたまものとしかいいようがない。その平井の情念がまだ歳若かった小生の、ツボを突いたのだろう。
 人類=悪、自然=善という対立する2項を設定して、自然の精霊の象徴が「狼」だ。この場合の「狼」は動物学的な、哺乳類の食肉目イヌ科イヌ属の動物のことではない。あくまで、人類に対立する、大自然の精霊ともいうべき存在が、平井の「狼」なのだ。平井はこのシリーズで「人類ダメ小説」なるジャンルを完成させた。
 いうまでもなく作者の平井和正も読者の小生も人類である。では、なぜ自分をダメといっているのか、自分がダメといわれて喜んでいるのか?平井のダメは否定で停止するダメではない。後にさらに高次元の肯定をするための否定なのだ。ゆえに平井は「ウルフガイシリーズ」で、いったんダメといったあと。「幻魔大戦」で巨大な否定と肯定が接触する物語を紡いでいったのだ。
(2008.9)
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