1969年3月号 No.118
地球の汚名(第3回) 豊田有恒
ゴーストイメージ 平井和正
ギレアデ ゼナ・ヘンダースン
骨のダイスを転がそう フリッツ・ライバー
声なき絶叫 ハーラン・エリスン
ホークスビル収容所 ロバート・シルヴァーバーグ
毒をもって毒を ドミトリー・ビレンキン
生命の水 ドミトリー・ビレンキン
発明の効用 ドミトリー・ビレンキン
この号の掲載作は以上の9編。「地球の汚名」はSF版忠臣蔵。忘れられている作品だが、読んでいる時はなかなか面白い娯楽作。「ゴーストイメージ」はサイボーグ特捜官シリーズ。「ギレアデ」はピープルシリーズ。このシリーズを本歌として、恩田陸が「常野物語」を書いた。ビレンキンの3編はショートショート。ソ連人作家のショートショートとは珍しい。
人気カウンターで小生は、「声なき絶叫」を1位、「ホークスビル収容所」を2位、「骨のダイスを転がそう」を3位に上げている。この3篇はヒューゴー賞特集の3編。1968年度のヒューゴー賞である。今から40年前のヒューゴー賞だ。
「声なき絶叫」は短編賞、「骨のダイスを転がそう」は中篇賞を、それぞれ受賞している。「ホークスビル収容所」は長中篇部門の候補作。
声なき絶叫
機械=電子頭脳の中に、「情報」として閉じ込められた5人の物語。彼らを閉じ込めているのは「AM」なるモノ。
「AM」とは何か?以下同誌同号より引用。
「はじめは〈連合(アライド)マスターコンピューター〉の意味だったんだ。それが〈自動適応操作機(アダプティブ・マニピュレーター)〉を意味するようになって、それからもっと知覚力を自分で発達させ、全体を連結した。人々は〈侵略する脅威(アグレッシブ・メナス)〉とそれを呼んだが、その時には遅すぎた。そしてとうとう、それは知能を持ち、自分自身をAMと呼んだ」以下略。以上、引用終わり。
これ、40年前の作品である。現代のインターネットを予言しているといっていいのでは。サイバーパンクのはしりというべき作品だ。「予言の書としてのSF」といわれるが、この作品はその好例だろう。エリスンはやっぱり、タダ者ではない。途中で挿入される穿孔テープが時代を感じさせる。
ホークスビル収容所
10億年前の地球。カンブリア紀に政治犯を収容する施設がある。そこには一方通行で未来から政治犯たちが送られてくる。
いかにもシルバーバーグらしい、アイデアストーリー。できれば、最新の古生物学の知識を盛り込んで、リメイク版をシルバーバーグに書いてもらいたい。カンブリアの大スター、アノマロカリスも出してね。
骨のダイスを転がそう
クラップというサイコロ賭博を行うギャンブラーの話。彼が賭場で出合った大物ギャンブラーとは何者?
ホラーのような、ファンタジーのような奇妙な作品。短編の見本のような作品。
先進的な作品。典型的なアメリカSF。奇妙な味の好短編。と、ちょっと前のアメリカSFの底力が判るヒューゴー賞特集企画であった。
(2009.1)
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