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SFマガジン思い出帳 第24回

雫石 鉄也







1969年10月号 No.125

掲載作
リスの檻
トーマス・M・ディッシュ
マーティン・ボーグの奇妙な生涯
ジョージ・コリン
宇宙の熱死
パミラ・ゾリーン
媒介者
アイザック・アシモフ
禁断の園
ロバート・シェクリイ
フランクになろう
ブライアン・W・オールディス
跳躍者の時空
フリッツ・ライバー
沈黙の兄弟
アルジス・バドリス
統治者たち
A・E・ヴァン・ヴォクト
チキン・ラン
豊田有恒
眉村卓

 こうして目次を見ると、えらい豪華メンバーである。それはさておき、この号は〈新しい波〉特集。「リスの檻」「マーティン・ボーグの奇妙な生涯」「宇宙の熱死」の3作が、特集企画として、イギリスのニュー・ワールズ誌より転載されている。
 「新しい波」は、いわゆる「ニューウェーブ」とかいって、70年代のSFにおいてブームとなった。この号のSFマガジン特集企画によって、日本に初めて「にゅーうぇーぶ」なるものが紹介された。その後、日本のSF界にも「にゅーうぇーぶ」の信奉者が現れ、山野浩一氏たちを中心に「NW−SF」という雑誌が季刊で発行されたりした。この「NW−SF」は小生も買うには買っていたが熱心な読者ではなかった。
 この「新しい波」なるもの、伊藤典夫氏がこの企画の解説で書いているが、アメリカSFに押されていた、イギリスの「ニュー・ワールズ」誌が苦肉の策として、当時25歳のマイクル・ムアコックを編集長に迎えたの始まりだった。
 それまでに、J・G・バラードが実験的なSFを発表していたが、この「実験的SF」の分野をムアコックが開拓して成功したというわけ。
 この「にゅーうぇーぶ」なるもの、ようするに、興味の対象を内に内に向けて、作者の意識の中にある世界を描いてやろうというもの、ではないか。実は、小生もいまだによーわからんが。それまでのSF、特にアメリカSFは、興味の対象を外へ外へと向けて、作者の内面世界は読者にとってなんら関係ない小説であった。作者の想像力でもって作品世界を構築して、その世界で読者に遊んでもらい、読者のごきげんをうかがうというのが、それまでのSFであった。こういう小説ではエンタティメントに長けたアメリカSFに、イギリスSFは太刀打ちできない。と、いうわけでイギリスで「にゅーうぇーぶ」が勃興したというわけではないだろうか。
 確かに、この「にゅーうぇーぶ」日本でもある種のファンにもうけたことは事実。能天気なハリウッド映画みたいな、ワーとしてアメリカSFに飽きたファンには「にゅーうぇーぶ」は喜ばれていた。
 しかし、小生は「にゅーうぇーぶ」は嫌いだった。だいたいが、作者の「うち宇宙」の話を読んで何が面白いのか、小生はようわからん。
 将来、SFの歴史を研究する者がいれば、「にゅーうぇーぶ」をこう記すのではないだろうか。
「20世紀末期に『にゅーうぇーぶ』なるものが勃興した時期があった。あれもSFの青春の思ひでである。若気のいたり、一時の気の迷いであった」  

(2009.4)
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