戻る

SFマガジン思い出帳 第27回

雫石 鉄也







1968年1月号 No.103

掲載作
神々の贈りもの
レイモンド・F・ジョーンズ
世界も涙
ブライアン・オールディス
マンホール69
J・G・バラード
死にいたる病
福島正実
砂上の影
久野四郎
成年者(後編)
ラリイ・ナイヴン
EXPO‘87(最終回)
眉村卓

 眉村さんの連載はこの号が最終回。
「成年者」作者名、当時は「ナイヴン」と表記していた。この作品、前編はまったく面白くなかった。ところが、この号の後編はめっぽう面白い。面白くない小説でも、がまんして読んでいれば、面白くなることもある。ということを教えてくれたのがこの作品だ。
 オールディスとバラード。ニューウェーブの両巨頭。小生はバラードの「マンホール69」に軍配を上げている。人間が外科的な手術で睡眠を取らなくてもいいようになった。3人の男が被験者となって実験が始まった。被験者3人と担当医師とのやりとりが面白い。
「神々の贈りもの」地球に異星人が不時着。宇宙船には異星の夢のような技術がいっぱい。しかも管理人のロボットはみんな地球にさし上げるといっている。
 というようにファーストコンタクトテーマみたいだが、この作品の眼目は異星と地球との最初の接触の顛末ではない。異星の技術に接触できる地球人は限られている。各国が派遣した科学者と軍人。宇宙船に入るときは必ずこの組み合わせのペアで入室しなくはいけない。主人公は二人、科学者のクラーク・ジャクソン博士と軍人のジョージ・ディマーズ陸軍中将。学生時代より友人のこの二人。なにもかも正反対。質素と派手。現実と理想。異性のお宝をはさんで対立する二人の男のドラマ。
「砂上の影」久野四郎。今では忘れられた作家といってもいいのでは。福島編集長の個人的なつてで書いていた作家だから、福島編集長退任と同時に書かなくなった。小生は好きな作家だった。日常の中の潜むなにげない描写で描かれるホラーは、しっとりと乾燥の具合がちょうど良くて、読み心地の良い短編だった。もっと思い出されてもいい作家だろう。
 コラム「世界みすてり・とぴっく」に「もし世界の氷が全部溶けたら・・・」という記事が載っていた。ようはあちこち水浸しになるということ。ところが、なぜ世界の氷が溶けるのか、という水浸しの原因は全く書いていない。41年前はCO2による温室効果なんて判らなかったのかな。
 41年前ついでにもう一つ。コラム「さいえんす・とぴっくす」に「世界初の無人銀行」深夜でもカード一枚で現金が引き出せる。便利ですね。すごいですね。「未来」はいいですね。と、いうわけで、大昔のSFマガジンのコラムを読む楽しさは、現代を「未来」と実感させてくれるところ。

(2009.7)
inserted by FC2 system