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SFマガジン思い出帳 第28回

雫石 鉄也







1968年3月号 No.105

掲載作
10月1日では遅すぎる(第2回)
フレッド・ホイル
気は優しくて力持ち
ハリイ・ハリスン
人口九千九百億
筒井康隆
バケツ一杯の空気
フリッツ・ライバー
ぼくのスペースオペラ
豊田有恒
瞬間を貫いて(第1回)
エムツェフ&パルノフ
ペルシダーに還る
エドガー・ライス・バロウズ

「10月1日では遅すぎる」連載の2回目だが、めっぽうおもしろい。宇宙論の大家フレッド・ホイルの時間SF。科学者が書いたSFは数多有れど、この作品は傑作。いま、文庫で手に入るのだろうか。もし絶版ならぜひ再版して欲しいな早川さん。
 この号、小生は、「人口九千九百億」「バケツ一杯の空気」「ぼくのスペースオペラ」を上位に上げている。
「人口九千九百億」筒井康隆の初期短編の典型的な作品。地球の人口が九千九百億人になった。地球表面はすべて建物に覆われて、人々はきゅうくつに暮らしている。そんな地球にやってきた火星の大使。例によってドタバタが繰り広げられる。
「ぼくのスペースオペラ」前半は第1期SF作家が実名で登場する。昔は、みなさん、若く、仲が良く、しょっちゅう会っていた。SF作家の麻雀がどんなもんか、この作品を読めばよく判る。後半は、未来人が異星からの侵略に対応するために、過去から志半ばで死んだ英雄たちを呼び寄せて、戦いに赴かせる。
義経、山本五十六、アレキサンダー大王、デイビィ・クロケットたちが宇宙の戦いに挑む。こんな作品も楽しくていい。
「バケツ一杯の空気」太陽から離れてしまった地球。絶対零度の世界で生き残った一家。少年はお父さんにいいつけられて、外にバケツで液体になった空気をくみに行く。ライバーらしいアイデアストーリー。素直にSF短編を読む楽しさを味わえる。
 巻頭言で福島正実が心臓移植手術について言及している。この号が出る前年1967年12月、南アフリカで世界で始めての、心臓移植が行われた。あれからかなりの年月が経った。臓器移植はいまだに脳死した人からの移植に頼らざるを得ない。この時は、人口臓器ができると思ったのだが、難しいものだ。

(2009.8)
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