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SFマガジン思い出帳 第32回

雫石 鉄也







1968年9月号 No.111

掲載作
        
継ぐのは誰か?(第4回)
小松左京
生贄降臨
矢野徹訳   ロバート・シェクリイ
使節か敵か
千野宣夫訳  チャド・オリバー
時の娘
浅倉久志訳  チャールズ・L・ハーネス
渡り廊下
豊田有恒
白い服の男
星新一
登ったものは
平井イサク訳 アーサー・C・クラーク
臨界量
平井イサク訳 アーサー・C・クラーク
眠れる美女
平井イサク訳 アーサー・C・クラーク
瞬間を貫いて(第7回)
袋一平訳   セーウェル・ガンソフスキー
せんとらる地球市建設記録
星田三平

「生贄降臨」いかにもシェクリイらしいアイデアストーリー。ブラックユーモアが冴える。未知の惑星に降り立った男は、原住民から神として祭りあげられ、村一番の美女を妻とし、村のために多大な尽力をつくす。村人も感謝して、彼に「最高の贈り物」をする。
「渡り廊下」アイデア重視の、SFらしい短編が多い豊田の作品群の中では珍しい作品。ホラーの彩りを持った私小説と考えたらいいのだろう。小生は、豊田の短編ではこれが一番の傑作と考える。
「白い服の男」ショートショートではない。星新一の短編である。星が描く、平和だから不気味なアンチユートピア。なんとも皮肉な世界だ。
 クラークの3篇は「白鹿亭奇譚」
「せんとらる地球市建設記録」この号で一番面白かった。星田三平はこれ一作だけだったようだ。消息不明とのこと。
 昭和5年(1930年)〈新青年〉の懸賞募集に応募された作品。3等賞に入選している。〈新青年〉といえば戦前の探偵小説の有名な雑誌だが、本作は探偵小説ではない。立派なSFである。ジャンル分けすれば破滅SF新世界モノといえばいいだろう。
 海で難破して陸地にたどりついた男二人と小さな女の子の3人。そこは人々が死に絶えた世界だった。なんとか東京まで行くが、そこも死者の街だった。野獣と化した犬が襲いかかる。3人は生き残りの人たちと遭遇する。3人が海を漂流している間に何があったのか。
「40年の歳月に埋もれた古典傑作を、ここに完全復刻」との編集の宣伝文だが、これからさらに40年たった。80年前の作品である。驚いたことに古びていない。読める。面白く読めた。続編があるような終わり方だ。もし続編が発見されれば、現SFマガジン編集部はぜひ最新号で掲載して欲しい。 

(2009.12)
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