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SFマガジン思い出帳 第34回

雫石 鉄也







1969年1月号 No.116

掲載作
        
地球の汚名(第1回)
豊田有恒
エトルリア二四一一年
光瀬龍
ハッピーエンド
伊藤典夫訳 ヘンリー・カットナー
ガラスのわら人形
久野四郎
マスター 
南山宏訳 シオドア・コグスウェル
花の行方 
平井和正
魂の重さ(後編)
北村良三訳 アンドレ・モーロワ
死の塵 
浅倉久志訳 アイザック・アシモフ
真空漂流 
大野二郎訳  アイザック・アシモフ
その名はバイルシュタイン
中村能三訳 アイザック・アシモフ

 この号の「日記」で、当時の福島編集長が、ある放火犯の少女に関する新聞記事を紹介していた。
 その少女は複雑な家庭環境の娘で、「空想科学小説」に没頭。真顔で地球の危機を心配していた。また、「星の上で生活したい」「勉強に疲れたら星を見ていやされる」と、こんな娘であるとして、こんなんだから放火するのだ、といわんばかりの記事だ。と、福島編集長はこの記事を書いた記者に立腹していた。
 福島氏が怒るのはもっともだ。「空想好き」=放火、このなんの脈絡もない項目を無理やりくっつけた、極めて悪意に満ちた記事だ。「空想科学小説」=SFに対する偏見、嫌悪感という記者の個人的感情を、新聞という公器でもって吐露しているだけの記事だ。
 福島正実氏は、こういうSFに対する偏見、無理解、曲解、誤解、中傷、非難を決して見逃さなかった。目にするたび耳にするたび、こうして取り上げ、抗議し反論し、少しでも世にSFの真の価値を伝えようと、血のにじむ努力をしていた。福島氏は個性の強い厳しい編集者で、一部の作家と軋轢のあったのは事実である。しかし純粋に心からSFを愛し、日本のSFを育てた父だった。厳しい父であったらしいが。
「地球の汚名」豊田の連載はSF版忠臣蔵。忘れられた作品だが、これはこれで面白く読んでいた。どこかの文庫で復刊してもいいのでは。
「ガラスのわら人形」よくできたホラー。吹き溜まりのようなアパートに集う底辺の人々。その中に女祈祷師がいる。呪術で人が死ぬのか。犯人は祈祷師か。久野四郎は再評価されてもいい作家だと小生は思うが。
「花の行方」「狼男」「幻魔」のあの平井和正がこんなアイデアストーリーを書いていた。珍品といえば珍品といえる。核戦争後400年。人類は「種の存続」を最優先としていた。もちろん生殖は厳重な管理下におかれていた。少々ヤバイ記述があるが、ま、この程度だったらいいのかな。 
「魂の重さ」前篇は面白かったが後編は腰くだけ。死んですぐの人をガラス容器に封入して魂を取り出す話。二人分の魂を一つの容器に入れたらどうなるか、といったところから面白くなくなる。最後はべたべたの夫婦純愛物語。
 アシモフの3篇はSFミステリー。アシモフの得意ワザ炸裂の小品が三つ。
「死の塵」惑星の大気組成が話しのカギ。小生は特定高圧ガス取扱主任の資格を持っているが、その程度の知識があればすぐネタは判る。どのガスが何色のボンベに入っているかな? 
「真空漂流」アシモフ先生おん歳19歳の時の作品。乗っていた宇宙船が遭難。食料1週間分、空気3日分、水1年分。さあ、どうして助かる。
「その名はバイルシュタイン」SFっけはない。純然たるミステリー。双子ネタの変形。ようは青酸カリは特別な薬品ではないということ。

(2010.2)
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