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SFマガジン思い出帳 第35回

雫石 鉄也







1969年4月号 No.119

掲載作
        
地獄のハイウェイ(前編)
浅倉久志訳  ロジャー・セラズニイ
異境 
光瀬龍
虹の彼方 
岡部宏之訳  エリック・フランク・ラッセル
情報エリート 
石原藤夫
月下の怪影 
川口正吉訳  ロバート・E・ハワード
旅行かばん 
伊藤典夫訳  アラン・E・ナース
ぺてん 
深町真理子訳 ラリー・ニーブン
地球の汚名(第4回)
豊田有恒

  コラム「さいえんすとぴっく」に興味深い話題が二つ。まず、電子速記。人がしゃっべている言葉を印刷物にする方法がイギリスで開発されているとのこと。裁判や講演の記録は速記者の仕事であった。ところが速記を印刷物に展開するのは存外手間がかかる。そこで速記者が電子計算機のキーをたたいて、しゃべっていることを入力。電子計算機は記憶している言語パターンを認識して高速タイプライターで印字する。なんのことはない音声入力ワープロのこと。
 もう1つ、ポータブル・ミサイル。ミサイルというと天をにらんでそそり立つ巨大なものとの認識があるが、なんと手で持って歩けるミサイルが英米ソで開発中。バズーカ砲ほどの大きさ。スティンガーなどの対空ミサイルのこと。今は、反政府ゲリラでもこんな兵器は持っている。40年前のこと。
 さて掲載作を見てみよう。まずはセラズニイの出世作。「地獄のハイウェイ」SF冒険活劇。これは面白い。SF者であり冒険小説も好きな小生にとってかゆい所に手が届く作品。核戦争後むちゃくちゃになった世界。ロスアンゼルスからボストンまで薬を届ける話。主人公の特殊装甲車のドライバーがならず者というのはパターン通りだが、こいつがなかなか魅力的。この作品「世界が燃えつきる日」というタイトルで映画化されたが、映画は凡作であった。
「異境」ミツセ節全開の宇宙ドラマ。広漠たる宇宙空間で働くスペース・マンにとって、自分の足をつけるべき地はどこか。故郷はどこか。異境はどこか。
「情報エリート」お笑いSFとも読める。常に情報を発信し受信し続けないと仕事ができない21世紀のエリート。移動体通信機器の開発を担当する企業の研究員の話。けっきょく今のケータイが出来るべきして出来た形なんだな。
「月下の怪影」コナンシリーズ。この時分は「ヒロイック・ファンタジー」は日本ではなじみがなかった。アメリカでやっとリバイバルされてきたころだった。そういう意味で代表的なヒロイック・ファンタジー・シリーズのコナンがこの号で紹介されたのはタイムリーであった。「編集部M」氏がヒロイック・ファンタジーの解説を小さなコラムで書いていた。この作品そのものは、蛮人コナンが美しきお姫様を守って、海賊や化け物と戦うという定番。コナンのキャラがおもしろい。後にシュワちゃんで映画化された。


(2010.3)
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