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SFマガジン思い出帳 第38回

雫石 鉄也







1969年9月号 No.124

掲載作
        
ヴィーナス・クリーク
光瀬龍
花崗岩の女神
岡部宏之訳  ロバート・F・ヤング
おやすみ、ソフィア
千種堅訳   リーノ・アルダーニ
地球を継ぐもの
川村哲郎訳  ロバート・アバーナシイ
ホログラム
浅倉久志訳  サミュエル・R・ディレーニイ
十本足指の拾い屋
深町真理子訳 ブライアン・W・オールディス
理解者
浅倉久志訳  フレッド・セイバーヘーゲン
笑うな
筒井康隆

 この号から新企画が三つ始まった。巻頭カラーページのショートショート。石森章太郎の漫画「7P」。科学ネタのコラム「サイエンスジャーナル」担当は前編集長の福島正実。それにブックレビューのコラム「SFでてくたあ」が国内作品と海外作品の2本立てになった。
 41年前のSFのブックレビューは2本立てで事足りていた。最新の2010年7月号652では,国内、海外、ファンタジー、ホラー、ミステリー、境界作品、文系ノンフィクション、理系ノンフィクションの8本立て。「SFの拡散と浸透」極まれリ。喜ぶべきことかな。
 石森章太郎の漫画はファンタジー。私小説的な味わいがする佳品。「009」や「仮面ライダー」などで石森漫画というとエンタティメント色の強い漫画が多いが、小生はこの「7P」や「ジュン」の方に石森章太郎の本音があるように思う。
 さて、掲載作を紹介していこう。
「笑うな」不出来なショートショート。なにがおかしいんだか、よくわからない。「笑うな」ではない「笑えない」
「ヴィーナス・クリーク」金星に地下基地「ヴィーナス・クリーク」を作って、金星開発の足がかりを作った人類は、悲願の金星地上への進出を果すべく「ヴィーナス・オリエント」を地表に建設した。しかし、金星の過酷な気候と頻発する巨大地震のため人類は金星地表から撤退。「ヴィーナス・オリエント」は廃墟となった。「ヴィーナス・クリーク」では乏しい資材をやりくりしながら、金星開発の意志をつないで行った。ミツセ節が満喫できる宇宙SF。
「花崗岩の女神」その山を高空より見ると、横たわる乙女の裸身に見える。その山に登る男。男は一人の女性の面影を抱きながら、「彼女」に登り続ける。作者がヤングだから純愛SFとも読めるが、見方によってはスケベなSFともいえる。
「おやすみ、ソフィア」いつもお世話になっているAVビデオの女優本人が目の前に現れて、「好きにして」といっている。夢か。
「地球を継ぐもの」核戦争後のソ連。生き残りの村落に共産党のエライさんがやってきて人々を仕切る。その村に、アメリカ人がいた。彼はアメリカ式合理主義で物事をなし、人々に頼りにされている。核戦争後という極限状態では共産主義か自由主義かどっちがいい。
「ホログラム」火星の古代遺跡から奇妙な像が発見された。それは不思議なメッセージを発信していた。ディレーニイらしい言語ネタSF。
「十本足指の拾い屋」戦火で荒廃したロンドン。廃墟でスクラップをあさって生計を立てている一団がいた。ま、ガタロですな。(落語代書屋参考のこと)そのなかに「十本足指の拾い屋」と呼ばれるガタロがいた。
「理解者」狂戦士シリーズ。彼は狂戦士を遭遇した。でも狂戦士は彼を殺さなかった。なぜか。彼は画家だった。なぜ画家は狂戦士に殺されないのか。芸術家としてはなんともやりきれない話だ。
「ヴィーナス・クリーク」がいかにも光瀬龍で圧倒的な読み応え。あと、「地球を継ぐもの」がなかなかの拾い物であった。


(2010.6)
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