戻る

SFマガジン思い出帳 第39回

雫石 鉄也







1969年11月号 No.127

掲載作
        
彼岸世界(前篇)
川村哲郎訳  マレイ・ラインスター
むかしをいまに
牟礼一郎訳  デーモン・ナイト
決定的 
浅倉久志訳  アイザック・アシモフ
旅人 
岡部宏之訳  リチャード・マティスン
テキュニット 
眉村卓
河を渡って木立をぬけて
深町真理子訳 クリフォード・D・シマック
ドン・キホーテと風車
伊藤哲訳   ポール・アンダースン
おばあちゃんの嘘つき石鹸
田村裕訳   ロバート・アバーナシイ
重い・・・ 
福島正実

 この号は連載小説がない。だから掲載作が11編。盛りだくさんである。ラインスターやマティスン、アンダーソンといった職人的手だれ作家が楽しめた号だ。
 看板は「日米二大特作中篇」と銘うった、マレイ・ラインスター「彼岸世界」眉村卓「テキュニット」の2編。アメリカのベテランと、日本の新鋭(当時)の対決。これはもう眉村卓の圧勝。
「テキュニット」出色の社会派SFに仕上がっていた。火星に築かれた理想社会。ところが、そこはある「犠牲」によって成り立っている社会だった。地球から外部スタッフとしてやってきた男は、テキュニットのエンジニアと知り合う。いかにも眉村卓らしい「個」「全体」との対立。
「彼岸世界」職人ラインスターにしてはもたついた作品。この世と同時に存在する「向こう側の世界」その世界に拉致されて、奴隷となっているかもしれない恋人を探して主人公はその「世界」へ。この号は前篇。こうご期待後編を。
「むかしをいまに」フィルム逆回しというのがあるだろう。アレを小説でやっている。
「決定的」地球人に敵対する木星人。高圧、高重力の木星をいかに出て、彼らは地球にケンカをしかけるか。
「旅人」よくあるゴルゴダのイエスネタ。マティスンのテクニックで読ませる。
「河を渡って木立をぬけて」シマックらしいほんわかしたSF短編。ほのぼのとした時間モノ。
「ドン・キホーテと風車」用がなくなったロボットはどうするか。なんとも皮肉なロボットSF。野良ロボットの悲哀を描く。
「おばあちゃんの嘘つき石鹸」おばあちゃんが作っている石鹸が世界を変えた。
「重い・・・」夢オチのショートショート。小生は評価せず。
 以上のように、この号はにぎやかな号であった。中には枯れ木も山のにぎわいの作品もあったが。

(2010.7)
inserted by FC2 system