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SFマガジン思い出帳 第40回

雫石 鉄也







1969年12月号 No.128

掲載作
        
浮游都市
光瀬龍
夢みるもの
鏡明訳 ウォルター・M・ミラーJr
御入用の品あります
矢野浩三郎訳 ルイス・パジェット
地球の子ら
石原藤夫
分荼離迦
福島正実
午後のブリッジ
小松左京
彼岸世界(後編)
川村哲郎訳 マレイ・ラインスター

 1960年代最後のSFマガジン。次回からいよいよ1970年代のSFマガジンを紹介していく。小生、思うに、SFマガジンは1970年代が一番面白かった。これは絶対的な評価なのか?つまり古くからのSFマガジンの愛読者なら、みんなそうなのか。だれでも1970年代のSFマガジンが一番面白かったのだろうか。
 小生が初めて読んだSFマガジンは1967年9月号だった。SFマガジンを定期購読し始めて3年経って70年代を迎えることになる。もし、雑誌というものが、読み始めて3年目ぐらいが、一番面白いものだとするのならば、小生とSFマガジンの関係が密月時代に入ったということだ。だったら40年以上たった今はどういう関係だろうか。しばらくしたら金婚式を迎えようかという関係だ。長年の風雪をともにした古女房だ。SFマガジンは。 
 さて、この号の柱は2本。まず、光瀬龍のシリーズ都市第3部「浮游都市」火星、金星ときて、今回は木星。アンモニアの海とメタンの風の間にただよう木星開発基地。その基地では核弾頭を搭載した巨大なミサイルが建造されている。その基地に大津波が襲いかかる。この基地にも謎の古代惑星「アイララ」の影が。いつに変らぬミツセ節。和製宇宙SFの白眉といえる。
 2本目は「彼岸世界」の後編。娯楽SFの大ベテランラインスターの活劇SF。前篇は少々かったるかったが、後編はアクション満載。「向こう側の世界」は冷酷な支配者と支配者のしもべの凶暴な獣ルークが支配する世界だった。「こちら側」から拉致された人々は奴隷にされ過酷にこき使われていた。
 その奴隷たちが一斉蜂起。ルークを殺し支配者を倒す。革命動乱の書である。
「夢みるもの」サイボーグ・ロケットの悩み。
「御入用の品あります」不思議なお店。ここにはあなたが必ず必要になる品があります。お代はいくらでもいいです。いらない。いやいや絶対に必要になりますよ。都会的なブラックコメディー。
「地球の子ら」ハードSFの石原藤夫の作品とは思えない。なんとも象徴的な作品。
「分荼離迦」モノを創るということは地獄を見ることか。小生が読んだ福島正実の短編では、この作品が一番の傑作ではないかと思う。
「午後のブリッジ」小松左京のショートショート。星新一のショートショートも好きだが、小生、小松左京のショートショートも好き。この作品もオチが見事に決まっているブラックなショートショート。

(2010.8)
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