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SFマガジン思い出帳 第46回

雫石 鉄也







1970年7月号 No.135

掲載作
        
発明の母 
浅倉久志訳 トム・ゴドウィン
だましあい 
斎藤伯好訳 ロバート・シルバーバーグ
おとり 
小菅正夫訳  ダニエル・F・ガロイ
セールスマンの厄日 
大野二郎訳 フリッツ・ライバー
提灯 
石川喬司
シャングリラ 
光瀬龍
不死販売株式会社 最終回
加藤喬訳 ロバート・シェクリイ

 昨年、創刊40周年を迎えたハヤカワ文庫SFの広告が載っている。その広告を紹介しよう。以下、同誌同号より引用。

1957:ハヤカワSFシリーズ
1960:SFマガジン
1964:日本SFシリーズ
1968:世界SF全集

そして
1970:ハヤカワSF文庫誕生!

SFにロマンを求めるあなたに─
限りなく奔放なイマジネーションが
果てなき時空にくりひろげる
冒険と驚異、恐怖と幻想にみちみちた世界へ
あなたをご招待!

スペース・オペラ、ヒロイック・ファンタジイ
幻想冒険小説、“剣と魔法”小説など
SFに若さとエネルギーをあたえつづけてきた
古典から現代までの名作、傑作長編を
すべて収録していきます。

【収録作家の一部】
E・E・スミス
エドガー・ライス・バロウズ
エドモンド・ハミルトン
ロバート・E・ハワード
マレイ・ラインスター
A・メリット
キース・ローマー

 以上引用終わり。

 この号の巻頭言で森優編集長は、「山の頂上を目指すあまり、その広大な裾野を忘れてはならない。SFの原点への回帰が、SFをより高次へと押し上げる」と、いっている。これは、初代編集長福島正実がめざした、SFの文学的高みを目指すという路線からの決別宣言ではないか。早川のSFを大衆娯楽路線に大きく舵を切ったという意志表示だ。そして、その実践がハヤカワSF文庫の創刊ではないか。1975年の第14回日本SF大会のテーマは「SFの浸透と拡散」であった。その後、浸透と拡散はどんどん進む。1970年の森路線の開始は、この「浸透と拡散」の萌芽だったのではないか。

 高みを目指す福島編集長、裾野を広げる森編集長。日本SF界の幼年期に二人の名編集長を得たことは、大きな幸運であった。

 さて、今号の掲載作に移ろう。シェクリイの「不死販売株式会社」が連載最終回を迎えた。
「発明の母」「冷たい方程式」で有名なトム・ゴドウィンの中編。宇宙船が異星に不時着大破。呼吸可能な大気の、楽園のような惑星。その惑星、炭素含有量が異常に多い。土壌はほとんどがダイヤモンドで出来ている。ダイヤの砂嵐が起きる。最高の硬度のダイヤの砂塵が充満した大気。機械類は磨耗して使い物にならなくなく。ダイヤモンドの砂塵を克服していかにして惑星から脱出するか。
「だましあい」地球の科学技術がドメランギ星のそれを凌ぐことを実証するために二人の技師がドメランギ星にやってきた。地球にも二人のドメランギ星人がやってきた。二つの惑星の意地をかけた科学技術比べ。
「おとり」異星人が地球のあちこちに、おとりを仕掛けて人々を拉致しようとしている。新聞記者1人がそれに気がついた。
「セールスマンの厄日」ロビイは物品販売用ロボット。熱心に人々にいろんな物を売る。世界がどうなっても、熱心に物を売る。
「提灯」今月のカラーショートショート。人の魂が提灯になったのか?
「シャングリラ」望郷の念おさえがたく、消滅した第5惑星「アイララ」に戻ろうと「とりで」を建設して、脱出用宇宙船を建造する「アイララ」人。そうはさせじと、「とりで」を襲撃する地球人たち。壮絶な戦いが。読み応え満点の光瀬節がさえる。

 野田昌宏の「SF美術館」は、SFイラストに関するQ&Aの2回目。アメリカのSF雑誌だけではなく、押川春浪の「冒険世界」のイラストについても紹介している。

 石森章太郎の「7P」今号の献辞は「小松左京に」

 大伴昌司の「トータルスコープ」「猿の惑星」の続編の紹介。

 ハヤカワミステリ1000点記念作品の広告が載っている。ジェフリイ・ハドソン「緊急の場合は」マイクル・クライトンのことである。

(2011.2)
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