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SFマガジン思い出帳 第58回

雫石 鉄也







1971年7月号 No.148

掲載作

ヤマトタケル誕生
豊田有恒
より偉大なるもの
伊藤典夫訳 トム・ゴドウィン
これが家だ
矢野徹訳  ヘンリイ・カットナー
国家はいらない
山野浩一
極小宇宙の神
中上守訳  シオドア・スタージョン
暗い潮を刈れ
浅倉久志訳 C・M・コーンブルース
脱走と追跡のサンバ(第10回)
筒井康隆
大河漫画
鳥人大系(第3章その3)
手塚治虫
SFコミックスの世界(第7回)
幻影の扉を求めて
KOSEI
SFスキャナー
止まらなくなった宇宙船の話
浅倉久志
空想不死術入門(第4章)
機械化人間の基礎
渡辺晋
エンサイクロペディア・ファンタスティカ
宇宙製造者たち(2)
伊藤典夫

 前号1971年6月号の2本柱は、100枚クラスの日本人作家二人(光瀬龍と荒巻義雄)だったが、今号はアメリカ人作家二人の100枚クラスが2本柱として並ぶ。スタージョンとコーンブルースである。スタージョンはおりに触れて作品に接するが、コーンブルースは、フレデリック・ポールとの合作「宇宙商人」の作者として名前は知っていたが、あまり作品を読んだ記憶がない。そのコーンブルースの作品がこの号で読める。あと豊田の作品は和製ヒロイック・ファンタジーシリーズの2作目。
「ヤマトタケル誕生」53回目(1971年1月号)に載った第1作目「火の国のヤマトタケル」は成長した小碓の王子(ヤマトタケル)の熊襲侵攻と川上タケル暗殺、ヤマトタケルを名乗るエピソードがストーリーだが、今回は小碓の王子の誕生と受難、成長するまでが描かれる。
「より偉大なるもの」官憲の手から逃げる反政府活動家の男女。女が死ぬ。その時、この地にうまれた「それ」が女に入り込む。
「これが家だ」新しい家に引っ越してきた夫婦。その家はなにかが奇妙だ。家がお節介をする。生きている家?
「国家はいらない」反政府ゲリラの女狙撃手が主人公。国家というものの存在意義を問う。
「極小宇宙の神」スタージョン版フェッセンデンの宇宙。極小宇宙を創った天才科学者と、スポンサーの銀行家の確執。銀行家は政治家まで動かして極小宇宙を金儲けの道具にしようとする。抵抗する科学者。極小宇宙の「新人類」が科学者の味方をする。
「暗い潮を刈れ」人類は海に活路を見出した。何万人という多くの人が大船団を組んで、海で生活する。日々の糧は海から得る。人々にとって何よりも大切なものは漁をするための網。網を無くすことは、その船団の人々の死を意味する。ソールター船長の船団が網を無くした。助かる手段を探りに船長たちは陸地の調査におもむく。
 この号のSFスキャナー。サブタイトル「止まらなくなった宇宙船の話」から、想像できる通り、ポール・アンダーソンの「タウ・ゼロ」の紹介である。アメリカ製ハードSFの人気アンケートをやれば、オールタイムで上位にランクされる、この作品が初めて日本に紹介されたのは、この記事が最初。後に翻訳されたが、訳者は紹介者の浅倉久志だ。

(2012.2)
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