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SFマガジン思い出帳 第59回

雫石 鉄也







1971年8月号 No.149

掲載作

九つのいのち
浅倉久志訳 アーシュラ・K・ル・グィン
憑きもの
浅倉久志訳 ロバート・シルヴァーバーグ
少年と犬
伊藤典夫訳 ハーラン・エリスン
正当防衛 
小松左京
農閑期大作戦
半村良
脱走と追跡のサンバ(第11回)
筒井康隆
ああ荒野
荒巻義雄
大河漫画
鳥人大系(第4章) 
手塚治虫
オーベロンとわたし(その1)
 
SFコミックスの世界(第8回)
ターザンは笑わない
KOSEI
SFスキャナー
アダルト・SF
岡田英明
空想不死術入門(第5章)
生理的時間の逆転は
渡辺晋
エンサイクロペディア・ファンタスティカ
宇宙製造者たち(3)
伊藤典夫

 1970年のヒューゴー・ネビュラ賞特集の第1回目。最近は3月号でこの特集をやっているが、このころは8月号でやっていたのだな。それに、ヒューゴー賞とネビュラ賞だけだったのだが、あれから40年もたったからあちらの賞も増えた。最新の2012年3月号では、英米SF賞受賞作品特集として、この両賞以外にも、アナログ誌読者賞、シオドア・スタージョン記念賞の作品も掲載している。40年もたてば賞も増えるのだ。
「九つのいのち」ネビュラ賞ノベレット部門第2席。男女5人づつ、10人の鉱山技術が辺境の惑星に派遣されてきた。10人は一人の天才の細胞から創りだされたクローンだった。クローンたちは事故にあう。この作品がル・グインの日本初紹介となる。
「憑きもの」ネビュラ賞ショート・ストーリイ部門受賞/ヒューゴー賞ショート・ストーリイ部門第2席。憑きものが憑いている間のことは判らない。責任も問われない。その間にあった異性と出会っても、接触しないのがマナー。
「少年と犬」ネビュラ賞ノヴェラ部門受賞/ヒューゴー賞ノヴェラ部門第2席。当時人気絶頂「問題児」エリスンの問題作。第3次世界大戦後。廃墟の街で生きる不良少年アルバート。彼は言葉をしゃべる犬ブラッドを相棒に、徒党を組まず一人で生きる。そんな彼が数少なくなった女性と出会う。その少女を守り多数の愚連隊と戦う。掲載時のイラストは新井苑子。言葉は乱暴だが、実はナイーブという少年の内面が新井のイラストでよく表現されていた。エリスンのこの作品のイラストに新井苑子を起用した編集者の手柄である。
「正当防衛」パトロール中のとある惑星に不時着。乗組員3人は穴にはまってしまった。その中でハンダの化け物に襲われる。その化け物の正体とは。小松がこんな軽いアイデアストーリイを書いていたのだ。ゆえあって未発表とあるが、恥ずかしかったのかな。
「農閑期大作戦」出稼ぎ農民。2大巨大コンチェルン。ヤクザへのかち込み。3題話である。この3題にエイリアンがからむ。
「ああ荒野」一人、装甲車に乗って荒野をさまよう猟人。一人の若い娘とあう。娘に連れられて彼女の村落へ行く。そこで彼は、村の長老から頼みごとをされる。滅びいく村の人々にとって、旅の猟人は未来への希望だ。この作品で荒巻デビュー以来6作目。荒巻はこのころ矢継ぎばやに作品を発表して、急速にSF作家としての地歩を固めていった。

(2012.3)
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