戻る

SFマガジン思い出帳 第68回

雫石 鉄也







1972年4月号 No.158

掲載作

神変ヒ一族 産霊山秘録第1話 
半村良
世界の中心で愛を叫んだけもの 
浅倉久志訳 ハーラン・エリスン
聞いていますか 
浅倉久志訳 ハーラン・エリスン
サンタクロース対スパイダー 
伊藤典夫訳 ハーラン・エリスン
ダニル教授の実験 
石川仁美訳 マレイ・ラインスター
石機械 
荒巻義雄
劇画ノベル
新・幻魔大戦 第2章ミュータントお時B
平井和正 石森章太郎
大河漫画
鳥人大系 第9章 うずらが丘(その1)
手塚治虫
SFコミックスの世界(第16回)
遊園地としての地球
KOSEI
エンサイクロペディア・ファンタスティカ
宇宙製造者たち(8)
伊藤典夫
空想不死術入門(第11章)
長い年月のなかで
渡辺晋
SFスキャナー
つくりだされた〈偶然〉!どうにでもなる〈宿命〉!
団精二

絵筆の幻視者フィンレイ
 
SF論壇 明日はどっちだ!
川又千秋

 この号から、半村良の産霊山秘録の連載が始まった。半村は先に出した「石の血脈」と、この「産霊山秘録」によって人気作家としての地位を固めた。後にさんむら(森村誠一・西村寿行・半村良)の一人といわれるようになった。また半村の活躍で伝奇小説がブームとなった。伝奇小説ブームのもう片方の立役者荒巻義雄もこの号に登場している。
 特集はハーラン・エリスン特集。エリスンといえば、アメリカSF界のごんたくれ。エリスンのごんたぶりがよく判るのが、第59回で紹介した1971年8月号掲載の「少年と犬」だが、この号ではさほどごんたではない。
「神変ヒ一族」産霊山秘録開幕作品。平和を願う超能力者集団ヒ一族の飛稚は、織田信長家中、明智光秀の配下へもぐりこむ。戦国の世を終わらせるため織田に天下を取らせるためだ。飛稚は比叡山焼き討ちの業火の中タイムスリップ。昭和20年大空襲下の東京に到着した。
「世界の中心で愛を叫んだけもの」人類を愛する殺人鬼スタログが裁判にかけられた。スタログは叫ぶ「おれはみんなを愛してるんだ」アメリカSF屈指の名題名だ。数年前、この題名のパクリと思われるベタな恋愛小説が流行ったが、本家はベタ恋愛小説とは似ても似つかぬエリスンSF。
「聞いていますか」え、これが、あのごんたくれエリスンの作品かと疑う、おとなしいまっとうなアイデアストーリー。他人に存在を認識されない男のお話。
「サンタクロース対スパイダー」この号の中で一番ごんた。アメリカのエライさんにとりついた「スパイダー」を退治するクリスはサンタクロースだった。
「ダニル教授の実験」ひとつがいの犬に子供ができた。実験のため仔犬を拉致しようとする教授と10歳児程度に知能が高まった両親の犬とのバトル。
「石機械」なんでも石でできた石の都アルセロナ。石の技術者Kは女皇に抜擢され、「石」を研究して、空飛ぶ石の機械を造れと命じられる。
 この号の巻頭言で、グァム島で28年ぶりに発見された横井庄一さんの話題が。1972年といういうと、そういうことがあった年なんだな。
「すぺーす・たいむ・あんてな」では、磁気浮上列車、つまりリニアモーターカーの研究開発が行われているとのこと。鉄道技術研究所では模型による実験を成功させている。それから40年、リニアモーターカーは未だ実用されていない。

(2012.12)
inserted by FC2 system