この号から、半村良の産霊山秘録の連載が始まった。半村は先に出した「石の血脈」と、この「産霊山秘録」によって人気作家としての地位を固めた。後にさんむら(森村誠一・西村寿行・半村良)の一人といわれるようになった。また半村の活躍で伝奇小説がブームとなった。伝奇小説ブームのもう片方の立役者荒巻義雄もこの号に登場している。
特集はハーラン・エリスン特集。エリスンといえば、アメリカSF界のごんたくれ。エリスンのごんたぶりがよく判るのが、第59回で紹介した1971年8月号掲載の「少年と犬」だが、この号ではさほどごんたではない。
「神変ヒ一族」産霊山秘録開幕作品。平和を願う超能力者集団ヒ一族の飛稚は、織田信長家中、明智光秀の配下へもぐりこむ。戦国の世を終わらせるため織田に天下を取らせるためだ。飛稚は比叡山焼き討ちの業火の中タイムスリップ。昭和20年大空襲下の東京に到着した。
「世界の中心で愛を叫んだけもの」人類を愛する殺人鬼スタログが裁判にかけられた。スタログは叫ぶ「おれはみんなを愛してるんだ」アメリカSF屈指の名題名だ。数年前、この題名のパクリと思われるベタな恋愛小説が流行ったが、本家はベタ恋愛小説とは似ても似つかぬエリスンSF。
「聞いていますか」え、これが、あのごんたくれエリスンの作品かと疑う、おとなしいまっとうなアイデアストーリー。他人に存在を認識されない男のお話。
「サンタクロース対スパイダー」この号の中で一番ごんた。アメリカのエライさんにとりついた「スパイダー」を退治するクリスはサンタクロースだった。
「ダニル教授の実験」ひとつがいの犬に子供ができた。実験のため仔犬を拉致しようとする教授と10歳児程度に知能が高まった両親の犬とのバトル。
「石機械」なんでも石でできた石の都アルセロナ。石の技術者Kは女皇に抜擢され、「石」を研究して、空飛ぶ石の機械を造れと命じられる。
この号の巻頭言で、グァム島で28年ぶりに発見された横井庄一さんの話題が。1972年といういうと、そういうことがあった年なんだな。
「すぺーす・たいむ・あんてな」では、磁気浮上列車、つまりリニアモーターカーの研究開発が行われているとのこと。鉄道技術研究所では模型による実験を成功させている。それから40年、リニアモーターカーは未だ実用されていない。
(2012.12)