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SFマガジン思い出帳 第7回

雫石 鉄也







1969年7月号 No.122



 エドモンド・ハミルトンの「翼を持つ男」が掲載されている。ハミルトンは「キャプテン・フューチャー」や「スターウルフ」などのスペースオペラもいいが、小生はハミルトンの短編も大好き。SFではなく「空想科学小説」といった方がぴったしでセンス・オブ・ワンダーがたっぷり。ある意味SFを読む楽しさを充分に教えてくれた作家といえよう。
 この「翼を持つ男」はハミルトンの短編で最も好きな作品。叙情性にあふれた大変にロマンチックな作品。簡単に紹介すると次のような話。
 地下鉄の電気事故で、強烈な放射能を浴びた母から産まれたディヴィット・ランドは遺伝子に異常が生じ翼を持って生まれてきた。成長して鳥のように空を飛べるようになる。両親のないディヴィットはマスコミの奇異の目から逃れるため、保護者の博士に小島に隔離される。博士は年老い亡くなる。
 ディヴィッドは自由に飛びまわれるようになり、一人の娘と恋に落ちる。娘はいう「私と結婚したいなら翼を捨てて普通の男になって」
 大空を自由に飛ぶか、彼女といっしょになって幸せにくらすか。選択肢は二つ。ディヴィッドは決断する。
 小生は60年代後半から70年代にかけてのフォークソングが好き。フォーククルセダース、高石ともや、などをよく聞いた。この時代の曲で大好きな曲がある。
「鳥になった少年」 田中のり子
 そんなに大ヒットした曲ではないので、憶えている人は少ないと思うが心に残る名曲だと思う。
     いつでも少年は お祈りしたのです。大空自由に飛べる羽 ぼくにもくださいと 父も母もどちらもいない とてもさみしい身の上だから いつでも少年は夢見ていたのです 地上の悲しみない空へ 自由に行きたいと
     毎日少年はお祈りしたのです 神様お願い 白い羽 ぼくにもくださいと
    中略
    背中に羽ばたく白い羽 喜び歌うのよ

     作詞 山上路夫 作編曲 高見弘 歌 田中のり子
 ハミルトンの「翼を持つ男」と田中のり子の「鳥になった少年」小説と音楽、全く違うジャンルの作品だが、同じ感動を小生は受けた。
「翼を持つ男」を紹介したSFマガジンは1969年7月号。表記は7月号だが実際に書店の店頭に並んだのは同年の5月25日だろう。「鳥になった少年」は1969年12月発売。レコードが企画され詞と曲が作られ歌手が歌って、どれぐらいの時間で新譜としてレコード屋の店頭に並ぶか知らないが、「鳥になった少年」の関係者がSFマガジンの愛読者で「翼を持つ男」を読んで感動して触発され「鳥になった少年」という曲の企画を思いついたのではと考えるが、本当はどうなのだろう。
 

(2007.11)

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