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SFマガジン思い出帳 第72回

雫石 鉄也







1972年8月号 No.162

掲載作

直感 
風見潤訳  アイザック・アシモフ
山上の蛙 
浅倉久志訳 R・A・ラファティ
長い火曜の夜だった 
山田和子訳 R・A・ラファティ
町かどの穴 
浅倉久志訳 R・A・ラファティ
いまひとつの日本 
豊田有恒
海王星市から来た男 
今日泊亜蘭
十億トンの恋 
藤本泉
劇画ノベル
新・幻魔大戦 第3章 超能力者の血@
平井和正 石森章太郎
大河漫画
鳥人大系 第9章 うずらが丘(その5)
手塚治虫
SFコミックスの世界(第20回)
夢の大通り
KOSEI
空想不死術入門(第13章)
未来人と不死人
渡辺晋
SFスキャナー
マイクル・クライトンの『ターミナル・マン』
浅倉久志

 この号は、近年、再評価されて、一部で人気が再燃しているラファティの特集。それまで、ラファティの作品は3本しか訳されていない。(SFマガジン67年7月号、メリル編年間SF傑作選3、ミステリマガジン71年9月号)かような散発的な紹介ではなく、特集を組み本格的にラファティを日本に紹介したのはこの号が最初。これによってラファティの面白さに目覚めた人も多いだろう。ラファティ翻訳家の井上央氏も、この号を読んでラファティに目覚めたと、昨年の京都SFフェスティバルでいっていた。
 ではラファティ作品から紹介していこう。
「山上の蛙」銀河系で最も危険な狩りに挑む大富豪の男。三重山には四つの生き物がいる。ライオンのサイネク、熊のリクシーノ、鷲のシャソズ、蛙男のベイター・ジェノ。この四つの獲物を倒して生きている者はいない。なんか田中光二の初期作品みたいだが、そこはそれラファティ。ひねってある。
「長い火曜の夜だった」数分で大金持ち。その大金持ちが数分で乞食。10分で新製品が開発され大ヒット。数時間で過去の遺物。数時間で国が滅ぶ。人間の思考行動が超短時間でできるようになった。
「町かどの穴」ホーマー・フースは何人もいる。町のかどのあの穴からフースが何人も出てくる。迷惑な穴だ。
 3本ともいかにもラファティらしいみょうちくりんな作品だ。ラファティ以外の海外作品はアシモフのロボットもんが1本。
「直感」最新型ロボット。それは論理ではなく「直感」で思考するロボット。「女」の直感で思考し判断するロボット。「女」の「直感」はロボット三原則に反するか従うか。日本陣営は3本。
「いまひとつの日本」日本研究家のアメリカ人が日本に研究に来た。ボーイング747「芸者ガール号」に乗って。降りた空港の係員は裃にちょんまげ。外に出たらタクシーは人力車だった。日本は外国人が考える通りの日本になっていた。軍事大国から経済大国に、そして次に日本が取った生き残り戦略とは。
「海王星市から来た男」全世界の海面が上昇。世界は水没した。しかもその水は意志を持っていた。主人公はかって助けた男の意外な正体を知る。その男は侵略者だった。真正面の侵略もんSF。今日泊らしい独特の文字使いと文体が、古き良き「空想科学小説」の雰囲気を出している。
「十億トンの恋」異色作。こんな作品はSFマガジンでしか読めないだろう。美しい娘「東京」に「東京湾」が恋をした。300年来の恋だった。「東京」の父「日本」はこの恋をこころよく思わない。「東京湾」は「黒潮」の応援を得る。「東京」は「ロンドン」や「ワシントン」の意見を聞く。なんだか童話みたいだが、これがきっちり大人向けのSFになっている。ある意味ラファティを超える奇想SFだ。藤本泉、見直されてもいい作家だ。
 ところで、この号のSFスキャナーに、ラファティとロバート・F・ヤングの写真が掲載されている。ラファティは最近新刊が出ているのでどんなじいさんか判るだろう。ヤングはとてもあんなSFを書きそうにないおっさん。メガネをかけた偏屈そうな仏頂面の中年のおっさん。
 この号はラファティと藤本泉に圧倒される号だった。

(2013.4)
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