1972年9月臨時増刊号
掲載作
結晶星団 小松左京
火星人の道 光瀬龍
宇宙25時 荒巻義雄
未来の翳 豊田有恒
闇に這う者 団精二訳 H・P・ラブクラフト
永劫より 大野二郎訳 ヘイゼル・ヒールド
ティンダロスの犬 羽塚陽子訳 フランク・ベルナップ・ロング
黒い石 岡田英明訳 ロバート・E・ハワード
八月・その戦争と平和 星新一
毎年吉例増刊号。例年は秋に出していたが、この号は「夏のカスタム・プレゼント」9月号臨時増刊号として出ている。だから、7月の終わりには出ていたはずだ。
臨時増刊号だから、通常号の連載やコラムはない。第1特集が日本人作家4人の中篇4本。第2特集が、藤子不二雄と松本零士の漫画2本。そして第三特集がクトゥルー神話大系として、団精二の解説と、4本の作品。+ワンとして星新一のショートショート。
あとは、野田宏一郎のエッセイとコラム。コラムは「空想科学シンポジウム SFフ科会報告より」が九つのコラム。「世界怪奇物語」で九つのコラム。さすがに通常号より増ページで読みでがある。
日本人作家の4本は、「大型ハード」と目次にはうたっているが、厳密な意味でのハードSFではない。本格SFであることは間違いない。
「結晶星団」さる宇宙空間に14個の恒星が規則正しく並んでいる。両端に六角錐を持つ六角柱。水晶の結晶の形。そこは宇宙の特異点。ブラックホールか。神と悪魔がせめぎあう場所か。
「火星人の道」光瀬節たっぷり。哀感ただよう光瀬宇宙SF。引退したスペースマンは時代遅れのサイボーグだった。
「宇宙25時」だれぞの内宇宙の話である。映像化社会。彼は銀河Xに所属するミュータントだ。
「未来の翳」鯨信者が語る鯨族の未来。遥かな未来、海生哺乳類が陸に戻った。彼らが人類に替わって文明を築く。
「八月・その戦争と平和」8月に起こった戦争と平和に関する出来事。
日本人作家はこれまで。あとの小説「闇に這う者」「永劫より」「ティンダロスの犬」「黒い石」は、クトゥルー神話特集。団精二の解説によれば、クトゥルー神話の実作を日本に紹介するのは、これが初めて。いずれの作品も、過去の邪悪なるもんが、あらわになった。お〜お、こわい、といった小説。
確かに部厚くて読みでがあったが、もひとつガツンとくる満腹感のない増刊号であった。
(2013.6)
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