この号で最も読み応えがあったのは「クロノプラスチック1008年」ソビエト日本共和国の国民文学「源氏物語」ソビエト日本の誇りであり、疑問や批判は許されない。作者の紫式部は偉人である。主人公の父親はソビエト日本を代表する国文学者。紫式部が男であるとの説を発表したら逮捕され、精神病院に強制入院させられた。はたして真相は。主人公は源氏物語執筆当時の京都へタイムトラベルする。
作者、藤本泉は、「ひき裂かれた街」で1972年3月号にてSFマガジン初登場。「十億トンの恋」が1972年8月号に掲載。そしてこの「クロノプラスチック1008年」が三度目の登場。3作ともユニークな作品で異彩を放っている。非常に個性的な作家だったが、1989年、ヨーロッパ旅行中に消息不明。東ヨーロッパを取材中、拉致され処刑されたのではないかといわれている。見直したい作家の一人だ。
「就職の条件」火星が故郷の男。今は地球暮らし。地球は暮らしにくい。火星に帰りたい。火星行き宇宙船の機関員として就職する。
「庄の内民話考」東北は庄ノ内地方に伝わる民話を半村が収集して紹介。は、ウソ。半村の創作。さすがの職人芸だ。
「ベゾアール・ゴート」自然食品の販売員。貧相な中年男だったが、毎日走る。見る見る健康にマッチョな男になっていく。
「五つの運命」いろんな人生を経験する男。ストーリーテラーのアンダーソンにしては、観念がかって読みづらい作品だ。
この号の「鳥人大系」いつもの倍の16ページ。手塚治虫が先月オトした原稿をここで拾ったな。
(2013.12)