戻る

SFマガジン思い出帳 第80回

雫石 鉄也







1973年3月号 No.170


掲載作

クロノプラスチック1008年
藤本泉
就職の条件 
小森正昭訳 クリフォード・D・シマック
庄ノ内民話考
半村良
ベゾアール・ゴート
河野典生
五つの運命
深町真理子訳 ポール・アンダースン
劇画ノベル
新・幻魔大戦 第4章 魔人・正雪
平井和正 石森章太郎
大河漫画
鳥人大系 第11章 ポポロ伝(その5)
手塚治虫
SF論壇
前進と上昇
福島正実訳 ジェラルド・ジョナス
日本SFこてん古典 第2回
日本SF第1号とその周辺
横田順彌
SFコミックスの世界(第26回)
ザ・スピリット
KOSEI
現代宇宙詩シリーズ(7)
宇宙探検に捧げる言葉
矢野徹訳 ジョン・フェアファックス
SFスキャナー
ジョン・バースの千夜一夜
団精二

 この号で最も読み応えがあったのは「クロノプラスチック1008年」ソビエト日本共和国の国民文学「源氏物語」ソビエト日本の誇りであり、疑問や批判は許されない。作者の紫式部は偉人である。主人公の父親はソビエト日本を代表する国文学者。紫式部が男であるとの説を発表したら逮捕され、精神病院に強制入院させられた。はたして真相は。主人公は源氏物語執筆当時の京都へタイムトラベルする。
 作者、藤本泉は、「ひき裂かれた街」で1972年3月号にてSFマガジン初登場。「十億トンの恋」が1972年8月号に掲載。そしてこの「クロノプラスチック1008年」が三度目の登場。3作ともユニークな作品で異彩を放っている。非常に個性的な作家だったが、1989年、ヨーロッパ旅行中に消息不明。東ヨーロッパを取材中、拉致され処刑されたのではないかといわれている。見直したい作家の一人だ。
「就職の条件」火星が故郷の男。今は地球暮らし。地球は暮らしにくい。火星に帰りたい。火星行き宇宙船の機関員として就職する。
「庄の内民話考」東北は庄ノ内地方に伝わる民話を半村が収集して紹介。は、ウソ。半村の創作。さすがの職人芸だ。
「ベゾアール・ゴート」自然食品の販売員。貧相な中年男だったが、毎日走る。見る見る健康にマッチョな男になっていく。
「五つの運命」いろんな人生を経験する男。ストーリーテラーのアンダーソンにしては、観念がかって読みづらい作品だ。
 この号の「鳥人大系」いつもの倍の16ページ。手塚治虫が先月オトした原稿をここで拾ったな。

(2013.12)
inserted by FC2 system