この号は全部で8編の読み切り短編が掲載されている。小説の連載が1本もない。実に結構なことだ。小生は連載小説なるものは読まない。その作品が読みたければ単行本になってから読む。小説は一月も間隔をあけて細切れに読むものではないだろう。
さて、8編のうち、国産が3篇、海外が5編。このうちの柱は、田中光二とアシモフだろう。国産の新鋭と海外のベテランの競演となった。
「閉ざされた水平線」その田中光二のデビュー2作目。1972年12月号で「幻覚の地平線」でデビューした田中光二は、スタイリッシュな文体とエンタティメント性に優れた作品を発表。また、SFのみならず日本の冒険小説の定着に大きな貢献した作家となった。SFも冒険小説も大好きな小生は、田中光二のデビューを大喜びした。小生が実行委員長を務めた第3回星群祭のゲストに田中光二氏を呼んだのである。この「閉ざされた水平線」もいかにも田中光二な冒険SF。反体制運動に巻き込まれたクローン青年の話。もちろんルビ多し。
「マッシュルーム」チーちゃんがいなくなった。若い夫婦は心配する。少女は不思議なキノコを見つけた。
「巫山の夢」世界中でおかしげな信仰が流行っている。その発生源は?ブンガク的思いつめ福島SF。
「私は変身する」空飛ぶ住宅の周辺で不思議な殺人事件発生。犯人は?
「プロセス」知性ある森が主人公。彼?は縄張りを広げようとする。
「停戦」激戦中、絶対に戦争を終わらせる方法を考え出した伍長。ところが戦争は終わらない。
「かくもあわれな物語」どこからか助けを求める声が聞こえる。ひとつの文明が絶滅の危機に瀕している。彼らを助ける実に簡単な方法とは?
「タイウッド教授の実験」物質を過去に送るとどうなる。その物質はエネルギーに転換されるのか。また、ギリシャ語の現代の化学の教科書が、昔のギリシャに送られたら。アメリカ最大の原子力発電所で事故。
以上のごとく、実にバラエティ豊かな一冊であった。雑誌「Wonder Land」の広告が掲載されている。発行元は晶文社。この雑誌「宝島」と名前を変えて今もある。かようなサブカルチャーの雑誌で、これだけ長寿なのは珍しい。
(2014.5)