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SFマガジン思い出帳 第85回

雫石 鉄也







1973年8月号 No.175


掲載作

閉ざされた水平線
田中光二
マッシュルーム 街の博物誌パート5
河野典生
巫山の夢 
福島正実
私は変身する
深町真理子訳 ロン・グーラート
プロセス
伊藤典夫訳 ヴァン・ヴォクト
停戦
関口幸男訳 フランク・ハーバート
かくもあわれな物語
浅倉久志訳 ロバート・シェクリイ
タイウッド教授の実験
石川智嗣訳 アイザック・アシモフ
日本SFこてん古典 第7回
ノンSFこてん古典
横田順彌
現代宇宙詩シリーズ 9
宇宙のコロンブス
矢野徹訳 ジョン・フェアファックス
思考の憶え描き 4
深海魚計画 
真鍋博
SFスキャナー
新作・新刊・新雑誌
浅倉久志

家具としての女 ――話題のSF映画を見て
KOSEI
劇画ノヴェル
新・幻魔大戦 第4章 魔人・正雪(6)
平井和正 石森章太郎

 この号は全部で8編の読み切り短編が掲載されている。小説の連載が1本もない。実に結構なことだ。小生は連載小説なるものは読まない。その作品が読みたければ単行本になってから読む。小説は一月も間隔をあけて細切れに読むものではないだろう。
 さて、8編のうち、国産が3篇、海外が5編。このうちの柱は、田中光二とアシモフだろう。国産の新鋭と海外のベテランの競演となった。
「閉ざされた水平線」その田中光二のデビュー2作目。1972年12月号で「幻覚の地平線」でデビューした田中光二は、スタイリッシュな文体とエンタティメント性に優れた作品を発表。また、SFのみならず日本の冒険小説の定着に大きな貢献した作家となった。SFも冒険小説も大好きな小生は、田中光二のデビューを大喜びした。小生が実行委員長を務めた第3回星群祭のゲストに田中光二氏を呼んだのである。この「閉ざされた水平線」もいかにも田中光二な冒険SF。反体制運動に巻き込まれたクローン青年の話。もちろんルビ多し。
「マッシュルーム」チーちゃんがいなくなった。若い夫婦は心配する。少女は不思議なキノコを見つけた。
「巫山の夢」世界中でおかしげな信仰が流行っている。その発生源は?ブンガク的思いつめ福島SF。
「私は変身する」空飛ぶ住宅の周辺で不思議な殺人事件発生。犯人は?
「プロセス」知性ある森が主人公。彼?は縄張りを広げようとする。
「停戦」激戦中、絶対に戦争を終わらせる方法を考え出した伍長。ところが戦争は終わらない。
「かくもあわれな物語」どこからか助けを求める声が聞こえる。ひとつの文明が絶滅の危機に瀕している。彼らを助ける実に簡単な方法とは?
「タイウッド教授の実験」物質を過去に送るとどうなる。その物質はエネルギーに転換されるのか。また、ギリシャ語の現代の化学の教科書が、昔のギリシャに送られたら。アメリカ最大の原子力発電所で事故。
 以上のごとく、実にバラエティ豊かな一冊であった。雑誌「Wonder Land」の広告が掲載されている。発行元は晶文社。この雑誌「宝島」と名前を変えて今もある。かようなサブカルチャーの雑誌で、これだけ長寿なのは珍しい。

(2014.5)
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