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SFマガジン思い出帳 第94回

雫石 鉄也







1974年4月号 No.184

掲載作

狼のレクイエム(第3回)
平井和正
このけだるい地上に
浅倉久志訳 フィリップ・K・ディック
バシリスク
深町真理子訳 ハーラン・エリスン
ネズミ
伊藤典夫訳  ハワード・ファスト
女と子供の委員会
船戸牧子訳  ゼナ・ヘンダースン
白魔時駕籠 新妖幻記 白魔伝控帖 その3
荒巻義雄
太陽神への讃歌
矢野徹
紙幣は吹雪のごとく
藤本泉
大河漫画
鳥人大系 第12章 ファルコ・チンヌンクルス・モルツス(その6)
手塚治虫
SFエッセイ
ロン先生の虫眼鏡 第8回 ああ、そは彼の人か
光瀬龍
日本SFこてん古典 第13回 
日本古典SF「大予言」
横田順彌
連載評論 幻想小説の方へ 
夢の言葉・言葉の夢 第7回 オー・ノォ!(その2)
川又千秋
SFスキャナー
ポートノイは不満する
団精二
思考の憶え描き 連載12
陰影計画 
真鍋博

 連載が1本に読み切りが7編。この号も標準的な号である。巻頭言では(M・M)氏が、SF作家の麻雀について書いていた。SF作家の麻雀ほど、和気あいあいとした楽しい麻雀は他に知らないとのこと。
 さて、この号の作品を見て行こう。
「狼のレクイエム」先日亡くなった平井和正の代表的人気シリーズである。麻薬ナルコテック800で廃人となった青鹿晶子を救うため、解毒剤を求めて犬神明はCIAに乗り込もうとする。
「このけだるい地上に」シルヴィアだ。リックはみんなシルヴィアに見えてしまう。いかにもディックな作品。
「バシリスク」伝説の巨竜バシリスクがあらわれた。もひとつエリスンっぽくないな。
「ネズミ」一匹のハツカネズミが、宇宙人の地球探査を手伝うために「知能」を与えられた。
「女と子供の委員会」ある母と子が異星人と接触した。いかにもヘンダースンな作品。
「白魔時駕籠」杉田玄白の「解体新書」杉田がこの本を書く時に腑分けを見学した。この時腑分けされた罪人は女だった。平賀源内は若いころその女とあったことがある。ちょうどそのころ源内はある物の発明に没頭していた。時駕籠の発明に。
「太陽神への讃歌」ギリシャはミコノス島沖の海底から発見された壷の中から古い書物が出てきた。解読すると、そこにはアトランティスの物語が書いてあった。それを拾い上げたのは若い日本人の考古学者だった。作品の最後に「エロク・アニム・オス」の祈りの意味を知りたいとの、著者矢野徹から読者への問いかけがある。この問いかけに対する返答があったのかどうか記憶にない。
「紙幣は吹雪のごとく」物価が1万倍。コーヒー一杯90万円。超インフレ。極右政権。141名の少年が虐殺された。少年たちは地下組織を作って抵抗した。そしてテロをしかけた。人が傷つかないテロを。
 この藤本泉さん。もっと再評価されてもいい作家だと思う。たぶん、日本で最初に登場した女性の社会派本格SF作家ではないか。鈴木いずみも山尾悠子も、新井素子もいない時代に、藤本泉さんだけはいた。
 この号のてれぽーと欄に第1回星群祭の広告が載っている。ショートショート・コンテストもやっていたのだ。

(2015.2)
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