この号で編集長の森優が退任する。初代福島正美の後を継いで5年近く、SFマガジンの号数にして62号を森は担当した。福島は文芸としてのSFを、その頂を高めることに心血を注いだ。福島の後、2代目SFマガジン編集長となった森は、SFのすそ野を広げることに尽力した。
福島正美の日本SFに果たした功績は計り知れないが、福島路線のままだと、日本のSFは上質な文芸となったであろうが、一部好事家が愛好する偏狭な文芸ジャンルになったかも知れない。だから、エンタティメントとしてのSFに焦点を当てた森編集長の方向性は、その後の日本SFの発展を考えると、なくてはならないものといえる。森優も福島正美と並ぶ日本SFの大功労者なのだ。
さて、この号は連載が1編。読み切りが7編。先月号1974年4月号とまったく同じボリュームである。今のSFマガジンもこういう編集方針でやって欲しい。おかしげなタイアップちょうちん企画や、さして興味のない特集で紙面を埋めずに、SF専門誌なんだから、SFを読ませてくれればいいんだ。この25日(2015年2月25日)に隔月刊化で初めての号が出る。いかなる紙面刷新をするか括目して見たい。
「ビー」半村良の泉鏡花文学賞受賞後の最新作。子供の遊びのビー玉に大人も熱中する。世界的なスポーツとなり、使うガラスの玉が円より強い通貨になった。
「苦痛指向」その宇宙飛行士は苦痛に親しんでいる男だった。作品の終わり近くに料理関連用語が出てきて、訳者の伊藤典夫が訳注を付けているが、料理を趣味とする小生(雫石)はだいたい知っていた。
「男が椅子に腰をかけ 椅子が男の脚を齧む」くたばれグー!グーって何?シェクリイとエリスンの合作!という珍品。
「心のパートナー」夢オチのつるべ撃ち。夢を見させる麻薬。潜入した捜査官。どれが夢か現実か?
「先住種族」考古学者と探検家の会話。話題はある星の先住種族のこと。オチは「人間じゃない」
「太陽に覆いを」太陽系内の新航路開拓。水星軌道より内側を通る。太陽に近い。暑いどころかものすごく寒い。なぜか。
「白魔鬼神道」平賀源内、時駕籠の製作に没頭す。「西洋婦人之図」(神戸市立南蛮美術館蔵。当時のこと。南蛮美術館は今はない。神戸市立博物館に吸収)は、ほんとに源内の筆になるものか?
「宇宙船『オロモルフ号』の危機」破滅の使者来る。『オロモルフ号』が迎え撃つ。この作品、難解である。
「ロン先生の虫眼鏡」前回までは鳥の話だったが、今回は魚の話。観賞魚のこと。熱帯魚と金魚である。光瀬が中国に行った時のこと。路上に見事な金魚を並べている老人がいた。案内人は彼を「先生」という。聞けば有名な金魚の品種改良家。老人は金魚を売っているのではなく展示している。それは金魚の芸術家の個展だったのだ。
小生(雫石)も阪神大震災以前は水槽を二つ設置して熱帯魚を飼っていた。このように今は、熱帯魚飼育は貧乏人でもできる趣味だが、昔はいまのような便利な器具もないし、電気代もかかるから余裕のある好事家してできない趣味だった。光瀬は若いころ駐日アメリカ軍の将校の家でハウス・ボーイのアルバイトをしてた。その家で熱帯魚を飼っていた。生き物好きな光瀬は水槽をながめ、日米の国力の差を思い知らされた。その家の婦人は少年光瀬の前で平気で着替えをする。彼女にとって日本人の少年など人間ではない。犬や猫に着替えを見られても恥ずかしくないだろう。
「てれぽーと」のページに第13回日本SF大会MIYACONの広告が。小生が初めて参加したSF大会である。会場は、星群祭でも使ったことがあるし、毎年京都SFフェスティバルの会場となる、京都教育文化センター。あそこ、40年経っても変らんなあ。
最終のページに「狼のレクイエム」と「鳥人大系」休載のお知らせ。平井和正、手塚治虫両氏のやむをえない事情とのこと。平井は次号で平井自信が釈明する。1974年6月号を紹介する次回第96回で言及する。手塚の事情はなんだろう。たぶん原稿をオトしたのではないか。1974年は「ブラック・ジャック」が少年チャンピオンに連載し始めて1年目。手塚はそれまで漫画家生活最大のスランプであった。それが「ブラック・ジャック」で復活を果たした。そのあたりのカラミが関係しているのではないか。
(2015.3)