長島良三編集長の最初の1冊。初代福島正実、二代目森優、この二人の編集長の功績は前回に記したから繰り返さない。福島編集長は山を高くし、森編集長はすそ野を広げたということだ。二人ともSFのプロであった。それに比べて新編集長の長島良三は元々はフランス語の翻訳者で、ミステリーの編集者だった。巻頭言で長島編集長は、福島正実を織田信長、森優を豊臣秀吉に例えて、自分のことを徳川家康に例えているが、果たしてこれが当たっているかどうか。
さて今号も読み切り7編、連載連作が1編と標準的なボリューム。海外勢5編のうち3編がマイクル・ムアコック。マイクル・ムアコック特集である。解説は岡田英明(鏡明)が書いている。しかし、なんでマイクル・ムアコックなのか。岡田が解説で「SFMの編集部に無理をいってムアコックの特集をしてもらうことにした」と白状しているが、これはもう、鏡明がゴリ押しのわがままを通したということだろう。さて、そのムアコックの3編。どれもさして面白くない。
「夢見る都」ムアコックのヒロイック・ファンタジーシリーズの主人公エルリック初登場。まったく面白くない。
「山」最後の男二人山へ行く。
「フェリペ・サジタリウスの快楽の園」ベルリンはビスマルクの私邸の庭で殺人事件。全時間捜査官の私が捜査に当たる。助手はヒットラーという男。3篇のうちこれが一番マシだった。
「スフィンクスを殺せ」1972年にデビューした田中光二。2年目。このところ毎月のように作品を発表。あっという間にレギュラーの座をつかんだ。この作品もいかにも田中光二な作品。疫病発生。助かるためには全国に点在する「キャンプ」に行ってワクチンを打ってもらわなければならない。いわゆる田中光二「道中SF」の典型的作品。
「星の船長の物語」ソ連製ショートショートが3編。いずれも宇宙船の船長の物語。
「命令系統」「あなた、早くアレをどかしてちょうだい」女房に怒鳴られる。アレをどかすためには実に煩雑な手続きが。いったいだれがアレをあそこに置かせたのか。この作品、落語になる。
「ブカッティよ永遠に」フランスの今はなき名車ブカッティ。ドイツにベンツ、イタリアにフェラーリ、アメリカにリンカーン、イギリスにロールス・ロイス。これらに対抗するためにはシトロエンじゃ弱い。フランス国民の誇りブカッティを復活させるためにタイムマシンを駆る。
「白魔゛白魔経“」この連作なんだかストーリーを追うより、太古の日本とムー、アトランティスといった超古代の文明との関わりを考察するモノになってきた。
「ロン先生の虫眼鏡」野生の魚を水槽で飼うのはかわいそう。では金魚は。金魚を池に放した。リュウキンはひらひら泳ぐ。俊敏とはほど遠い。あっという間にタガメに捕まった。金魚は野生では生きられない。
「狼のレクイエム」がこの号も休載。最終のページに平井和正が「ウルフガイ退場の弁」を記している。ようするに自分はブック・ライターでマガジン・ライターではない。ウルフガイの読者はSFマガジンの読者につながらない。と、いうこと。とはいいつつも平井はのちにSFアドベンチャーで「幻魔大戦」を連載することになるのだが。
(2015.4)