この号は三大SFコンテスト小説部門の入選作品が発表された。この関連の作品の紹介は後述するとして、それ以外の作品に触れていこう。
「熱風」先々月号1974年7月号で「神狩り」でデビューした山田正紀の2作目。本当は「神狩り」とこの「熱風」の間に宇宙塵で2作目(「襲撃のメロディ」かな?)が発表されていたような気がするが未確認。
火星パイロット1号の名誉を得るのはならず者のオレか、名門の御曹司のヤツか。ハードな雰囲気で男の矜持を描く。
「異星の十字架」この作品の作者名だが、目次はハリイ・ハリスン、本文ではハーラン・エリスンとなっているが、正解はハリイ・ハリスン。エリスンがこんな小説を書くとは考えにくい。
純粋で論理的で神を持たないウエスカー星人。この星にキリスト教の神父が宣教にやってきた。「あなたに神のお恵みを」「そんなもんいらん」神父とウエスカー星人の間をとりもつのは無神論者の交易商人。なかなかの傑作。ハリスンの短編では有名な作品。
「薄明の朝食」家族5人、ふと気がつくと世界は一変していた。そこは未来と思われる核戦争後の世界であった。暗くうっとうしい世界がいかにもディック。
「死せる神々の書」白子のエルリックに翼の国の翼がない女が近寄ってきた。何世紀ものあいだ人々を悩ませ続けた、神聖にして強大な知識が記されている書物を探す旅に同行を頼む。途中で小男のムーングラムも一行に加わる。
さて、残った3点がSFコンテスト小説部門の入選作である。選考委員の顔ぶれは、小松左京、星新一、石川喬司、福島正実、筒井康隆、森優の6人。結果は。
第1位入選
クロマキー・ブルー
そして・・・・
第3位入選
奇妙な民間療法
佳作
封印された書 海上真幸
夏の旅人 田中文雄
この結果に対して、「これだけ粒ぞろいは他の新人賞にはない」石川、「既成作家の亜流がないのがいい」小松、「SF志向を持つ人のレベルが上がっている」福島、「ぼくが想像していたよりもずっと質が高い」筒井、「まじめな作品が多かった」星、「なかなかバラエティに富んでいた」森。とおおむね好評。
「クロマキー・ブルー」テレビ局のスタジオのクロマキーにおかしな風景が映っている。現代日本のモノではない。タイムトラベルもの。大化改新前夜に飛ぶ。大化改新のおどろくべき真相。
「そして・・・・」地球人類の未来をかけて戦いは続く。いつまでも続く。観念的ハードSF。難解。この作品に関しては各選考委員のコメントが面白い。石川「スタイルの目新しさにひかれた」小松「3回読んだ。表現方法は新しい」福島「ぼくの好みではない」星「娯楽性という点で疑問」森「科学に弱い人間でもムードだけでも楽しめる」小生(雫石)は福島さん星さんに賛成。
「奇妙な民間療法」おかしげな民間療法で末期癌を完治する。その副作用として失明する。なぜか。画像認識がアイデア。
と、いうのが、この時のSFコンテスト小説部門の成果だが、正直いって、3作とも、山田正紀「神狩り」田中光二「幻覚の地平線」ほどの衝撃はなかった。
この時の最終候補作に残った作品は次の通り。
「クロマキー・ブルー」 川田武
「そして・・・」 松崎保美
「奇妙な民間療法」 石川智嗣
「封印された書」 海上真幸
「夏の旅人」 田中文雄
「決戦・日本シリーズ」 かんべむさし
「未来記憶」 沖慶介
「仮面舞踏会」 山尾祐子
「我が名はフビト」 山口年子
「天職」 藤田柊
このうち、その後も作家として定着したのは、かんべむさし、山尾祐子(悠子)、沖慶介(清水義範)の3名。どうも早川の新人賞は、入選した人よりも、選外の人のほうが歩留まりは良いようである。
(2015.7)