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SFマガジン思い出帳 第99回

雫石 鉄也







1974年9月号 No.189

掲載作

クロマキー・ブルー
川田武
そして・・・・・
松崎保美
奇妙な民間療法
石川智嗣
熱風
山田正紀
異星の十字架
浅倉久志訳 ハリイ・ハリスン
薄明の朝食
仁賀克雄訳 フィリップ・K・ディック
死せる神々の書
佐藤正明訳 マイクル・ムアコック
大河漫画
鳥人大系 第14章 赤嘴党(その4)
手塚治虫
日本SFこてん古典 第18回 
日本SFの祖 押川春浪のこと 
横田順彌
連載評論 幻想小説の方へ 
夢の言葉・言葉の夢 第12回 鉄腕アトムの子ら
川又千秋
SFスキャナー
セピア色のマジシャン
団精二
思考の憶え描き 連載17
針計画
真鍋博
特別寄稿
超能力―失われてゆく野生
光瀬龍

 この号は三大SFコンテスト小説部門の入選作品が発表された。この関連の作品の紹介は後述するとして、それ以外の作品に触れていこう。
「熱風」先々月号1974年7月号で「神狩り」でデビューした山田正紀の2作目。本当は「神狩り」とこの「熱風」の間に宇宙塵で2作目(「襲撃のメロディ」かな?)が発表されていたような気がするが未確認。
 火星パイロット1号の名誉を得るのはならず者のオレか、名門の御曹司のヤツか。ハードな雰囲気で男の矜持を描く。
「異星の十字架」この作品の作者名だが、目次はハリイ・ハリスン、本文ではハーラン・エリスンとなっているが、正解はハリイ・ハリスン。エリスンがこんな小説を書くとは考えにくい。
 純粋で論理的で神を持たないウエスカー星人。この星にキリスト教の神父が宣教にやってきた。「あなたに神のお恵みを」「そんなもんいらん」神父とウエスカー星人の間をとりもつのは無神論者の交易商人。なかなかの傑作。ハリスンの短編では有名な作品。
「薄明の朝食」家族5人、ふと気がつくと世界は一変していた。そこは未来と思われる核戦争後の世界であった。暗くうっとうしい世界がいかにもディック。
「死せる神々の書」白子のエルリックに翼の国の翼がない女が近寄ってきた。何世紀ものあいだ人々を悩ませ続けた、神聖にして強大な知識が記されている書物を探す旅に同行を頼む。途中で小男のムーングラムも一行に加わる。
 さて、残った3点がSFコンテスト小説部門の入選作である。選考委員の顔ぶれは、小松左京、星新一、石川喬司、福島正実、筒井康隆、森優の6人。結果は。

第1位入選
クロマキー・ブルー
そして・・・・
第3位入選
奇妙な民間療法
佳作
封印された書  海上真幸
夏の旅人    田中文雄

 この結果に対して、「これだけ粒ぞろいは他の新人賞にはない」石川、「既成作家の亜流がないのがいい」小松、「SF志向を持つ人のレベルが上がっている」福島、「ぼくが想像していたよりもずっと質が高い」筒井、「まじめな作品が多かった」星、「なかなかバラエティに富んでいた」森。とおおむね好評。
「クロマキー・ブルー」テレビ局のスタジオのクロマキーにおかしな風景が映っている。現代日本のモノではない。タイムトラベルもの。大化改新前夜に飛ぶ。大化改新のおどろくべき真相。
「そして・・・・」地球人類の未来をかけて戦いは続く。いつまでも続く。観念的ハードSF。難解。この作品に関しては各選考委員のコメントが面白い。石川「スタイルの目新しさにひかれた」小松「3回読んだ。表現方法は新しい」福島「ぼくの好みではない」星「娯楽性という点で疑問」森「科学に弱い人間でもムードだけでも楽しめる」小生(雫石)は福島さん星さんに賛成。
「奇妙な民間療法」おかしげな民間療法で末期癌を完治する。その副作用として失明する。なぜか。画像認識がアイデア。
 と、いうのが、この時のSFコンテスト小説部門の成果だが、正直いって、3作とも、山田正紀「神狩り」田中光二「幻覚の地平線」ほどの衝撃はなかった。
 この時の最終候補作に残った作品は次の通り。
「クロマキー・ブルー」 川田武
「そして・・・」    松崎保美
「奇妙な民間療法」   石川智嗣
「封印された書」    海上真幸
「夏の旅人」      田中文雄
「決戦・日本シリーズ」 かんべむさし
「未来記憶」      沖慶介
「仮面舞踏会」     山尾祐子
「我が名はフビト」  山口年子
「天職」       藤田柊
 このうち、その後も作家として定着したのは、かんべむさし、山尾祐子(悠子)、沖慶介(清水義範)の3名。どうも早川の新人賞は、入選した人よりも、選外の人のほうが歩留まりは良いようである。  

(2015.7)
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