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とつぜんコラム No.1

雫石 鉄也


 数年前SFは冬の時代だ、いや氷河期だなどといわれていた。極端な人になるとSFは死んだとまでいう人もいた。(小生はちっともそんなこと思ってなかったけど)とにかくSFが落ち込んだように見える時期があったことは確かだ。それに比べて今は日本のSFは活況を呈しているといえるだろう。最盛期かと間かれれば少し首をかしげるが、SF界はにぎやかである。  一つのジャンルがジャンルとして充実し成熟するには二つの条件がある。一つは裾野が広いこと。もう一つは山頂が高いこと。この二つの条件を兼ね備えて初めて、そのジャンルが充実し成熟したといえるだろう。裾野が広いだけじゃ一時のブームで終わってしまう。山頂が高いだけじゃ一部の好事家に熱狂的なファンを持つだけのマイナーなジャンルだ。
 これを日本のSFにあてはめよう。裾野は広がったといって良いだろう。各種コンテスト出身の新人が多数輩出している。特にヤング・アダルトとよばれる分野で数多くの作家が健筆をふるっている。作家がそれだけ多いということは、当然作品も多く供給され、読者の数も増えたことだろう。
 誤解しないでもらいたいが、小生はヤング・アダルトが下でアダルトが上といっているのではない。どっちが上でどっちが下でもない。対象とする読者が違うだけである。ただ、若い人がSFへ入門する時の読書としては、ヤング・アダル卜と呼ばれるジャンルは適当ではないかと思う。
 四十年問SFもんであり続ける小生としては、以上の若い読者がそのままSFを読み続けて年を取り、大人のSFもんがもっともっと増えることを強く願う。
 で、次に山頂の高さであるが、まだまだ物足りない。第一世代の先輩方に比べれば小粒な感じがする。これらの諸先輩が最盛期のころは、巨木が林立する林に分け入るような感じを受けたものだ。しかし、将来の巨木を予感させる双葉がいくつか芽生えているのは心強い。
 具体的にはどうするか。早川書房と徳間書店に望む。この二社に東京創元社を加えて、日本のSFを支える三本柱だと小生は思う。(角川春樹事務所が戦列に加わったのは頼もしい)特に早川と徳間。まさか業界内分業をやっているとは思えないが、早川が雑誌発行、徳間がコンテストをやっている。雑誌とコンテストこれこそSFを盛んにさせる車の両輪ではないだろうか。
 早川にはハヤカワSFコンテス卜の復活を、徳間にはSFジャパンの月刊化を強くお願いしたい。

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