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とつぜんコラム No.10

雫石 鉄也


 ご存じの通り、今年の春闘は記録的に低調な春闘であった。経営側が示した回答はどれもひどいものばかり。過去最高の利益を出した卜ヨタでさえ、賃上げゼロ回答。それも国際競争力をつけるため、とかいうばくぜんとした理由でだ。よくトヨタの労働組合がOKしたと思う。
 これに対して労働側の態度も「この不景気じゃ、ま、しかたないか」というもの。賃上げどころか雇用の確保にせいいっぱい。まったく暗澹たる気持ちになる。これじゃこの不景気は永遠に続くと絶望的にならざるをえない。
「病気は気から」というが、「景気も気から」なのである。好景気、不景気と経済状態に波があるのは、資本主義経済の宿命。景気は下がれば必ず上がるものである。この景気を上下させる要因に、消費者の気分という要因が占める部分がかなり大きい。
 では、不景気とはどういう状態をいうのだろう。お金がない状態を不景気というのではない。お金のめぐりが悪い状態を不景気というのだ。
 今、この国の経済は循環器系の病気に権り、血液のめぐりが悪くなっているわけ。人体の血をめぐらすポンプ役は心臓が果たしている。経済の血液たるお金を世の中にめぐらすポンプ役は主に、個人消費、企業の設備投資、公共事業の三つ。この中でも景気の動向に一番大きく影響するのが個人消費である。
 で、今春闘の経営側の回答である。こんな回答では個人消費が伸びることは絶対にない。企業の経営者たちは景気回復を強く希望しながら、景気回復の足を引っ張ることをしたわけだ。まったく矛盾した行為である。
 景気が回復しないから企業の業績が落ち込む。企業の業績が悪いから、そこで働く人々の収入が少なくなる。収入が少なくなるから個人消費が伸びない。個人消費が伸びないから景気が悪くなる。日本経済はこういう悪循環におちいっている。
 いわば経営者たちは自分で自分の首を絞めているわけだ。今は苦しくても将来的に何をなすべきか、よく考えればわかるはずである。苦いから薬を飲むのをいやがっているようなものである。こんな近視眼的な目を持ち、緩慢な自殺をする経営者ばかりの日本株式会社に明日はあるのだろうか。
 もし、今年の春、日本国中の全ての企業が、せーので一斉に賃金を上げていたら景気は一発で回復していただろう。

(2002.4)

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