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とつぜんコラム No.13

雫石 鉄也


 若い頃はよく映画を観にいった。小生の高校は神戸の湊川にあった。新開地のすぐ近くである。高校のロケーションとしては決してよい土地ではないが、新開地は昔は神戸一の歓楽街であった。大阪の新世界、東京の浅草とならぶ日本を代表するグウンタウン。ただしそれは戦前の話。小生が高校生だった頃のこのへんは、歩くのにちょっとしたヨツがいる街だ。ほほにすじがあったり、小指が欠損しているそのスジのおじさんたちがたくさんいらっしやった。とはいうもののこの辺りは日本の首都だったこともある由緒ある土地だったと自慢させてもらおう。
 で、映画である。新開地は日本有数の映画の街だ。戦前は。いまは名画座とポルノ専門館が少しあるだけだが、小生が高校生の頃はロードショー劇場もあった。その代表が来楽館という映画館で神戸で一番古いロードショー劇場であった。いやひょっとすると日本最古の映画館かもしれない。一度しらべてみよう。
 高校で定期試験が終わると、まずは来楽館へ映画を観に行くのが習慣だった。高校から歩いて15分たらずの距離である。
「サウンド・オブ・ミュージック」「ミクロの決死圏」などはこの劇場で観た。
 映画を観おわると元町まで歩き古書店をみてまわり、SFマガジンの初期のものがあれば買う。三の宮では新刊書店をのぞきハヤカワの銀背のSFシリーズを買った。で、三の宮の喫茶店「コトブキ」で「雪ぽたん」を食べて阪神三の宮駅から電車で帰宅。というのがパターンであった。もちろん高校生同士で喫茶店へ入ることは禁止されている。一度、店内で美術の先生に見つかったことがある。こんなことしたらあかんよ。といいながらその場にいた全員におごってくれた。松下先生ごちそうさまでした。
 ところで映画の話でしたね。場内が暗くなってスクリーンの緞帳が開き地元の飲食店などのCMが流れて予告編が流れて本編が始まる。予告編はいいんです。小生も映画の予告編は大好きです。問題はCM。雑誌広告であれぱ飛ばして読めばいぃ。テレビCMであればチャンネルを変えればいい。ところが映画館のCMは逃れようがない。いやでも観なくてはならない。お金をとられてなぜ観たくもないCMを観なくちゃならないのだろう。どうしてもCMを流したいのなら本編が終わってから流すべきである。
 それに昔に比べて映画館内のマナーが大変落ちている。ガサガサ音をたててものを食べる。ペチャクチャ上映中にしゃべる。帽子をかぶったままの奴もいる。とても映画をゆったり観賞できる環境ではない。自宅でビデオを観るほうがよっぽど映画を十分に観賞できる。小さなテレビの画面というデメリットをさしひいても、映画の観方も知らない猿どもと映画を観るよりよっぼとましだ。


(2002.7)

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