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とつぜんコラム No.17

雫石 鉄也


 会社を辞めた。ご多分に涌れずリストラされたのだ。この会社に24年間在籍したが未練はない。決していこごちのよい24年間ではなかった。
 会社は私に賃金以外何もくれなかった。私も会社に労働力以外何も提供しなかった。24年働いて私の最終の肩書きは主任。ヒラで退職したわけだ。現在の私の気持ちは会社の呪縛から逃れてせいせいしたというのが正直なところ。とはいうものの、我が家の収入は私の賃金だけだから早急に次の収入の手段を考えないと一家3人餓死してしまう。
 どうもリストラがあるらしいという噂が社内に流れたのは8月の終わりごろだった。朝礼での常務の話の内容が、会社の経営状態が大変に苦しく厳しいといったものが多くなった。社長をはじめ会社経営陣の話はいつも会社の経営が苦しく我が社は今曲がり角、というものぱかり。経営状態は極めて良好で会社は大変もうかっておるという話はこの24年間聞いたことがない。だからいつものことだと思っていた。
 狼少年の狼が本当にやってきたのは9月27日だった。この日朝礼が終わったあと何人かの社員が休憩室に呼ぱれた。私もその中にふくまれていた。話というのは期間限定早期退織希望者募集に関すること。46才以上の社員を対象に40人を目標とする人員整埋を行なう。10月31日までにこの制度に応募すれぱ通常の退職金に上乗せをするというもの。
 10月3日対象者全員を葉めての説明会。10月9日個人面談。ここで具体的な数字を示されて意志を間われた。この場では私は会社に残る意志を伝えた。そして情報収集に努めた。組合の書記長・副委員長とも話をした。
 得た情報は次のとおり。会社は本年度中にリストラを完了したがっている。とりあえず40人(対象者は82人)という目標だが本当はそれ以上の人員整理をしたいらしい。応募者が少なけれぱ指名解雇もある。会社は手順を踏んでいるので組合としてはどうしようもない。私の直属の上司の係長は早々に応募して、たまっている有給休暇をとりはじめたが、謀長から私にはなんの指示もない。
 10月中に応募すれぱ退織金の割り増しがある。それをすぎて指名解雇されれぱ割り増しはない。会社が倒産すれぱ退職金すら出ない。妻とも夜おそくまで話し合い決断した。10月18日のことだった。10月19日は休暇をとって一日休養。10月20日、車を手放す予定だし行楽にも行けなくなるので、最後の行楽ということで妻子と3人で海遊館に行く。10月21日最後の出勤。10月22日この日より退織日の11月15日まで有給休暇。この日応募の書類を提出するためだけに出社。帰り道で24年間制服の胸につけていた名札を川に投げ捨てた。
 説明会で質間したのだが従業員は減らすが役員経営陣は減らさないとのこと。私に個人的に早期退織をすすめに来た常務に、あなたはどうすると聞いたら、自分は残るとのこと。こうなった責任は経営陣にある。それなのに自分たちは安全なところに身をおいて下から切っていく。まず、経営陣が総退陣してのち人員整理をおこない新たな経営陣のもと業績回復を期す。これが本当のリストラではないのか。アホが残れぱまたアホなことをくりかえすだけ。そんな会社に未来はない。私は私の決断は正解だと恩う。




(2002.11)

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