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とつぜんコラム No.23

雫石 鉄也



 4月の初めに入院した。胃潰瘍で出血したのである。胃潰瘍は小生の持病でこれで4度目の出血2回目の入院である。この病気、非常に再発しやすい。そのかわりに大変治りやすぃ。今回も5日で退院した。
 胃潰瘍の人は胃癌にならないというが、潰瘍と癌はまったく別の病気で関係ないそうだ。ただ胃潰傷を持病に持つとしょっちゅう胃カメラをされる。胃の中を消化器の専門医に見られることが多い。胃の中を観察されるついでに細胞の検査もされる。つまり胃癌があっても早期発見されるということ。それでこういう俗説がうまれたのだろう。今の医学では胃は身体の表面と同じといわれる。それほとの胃の中の観察技術は進歩している。小生なんかは今まで数えきれないほどの回数胃カメラをのんできた。この胃カメラ、実施する人の技術によってちがう。へ夕な医者にあたるとゲーゲーいって大変苦しい。上手な医者にやってもらうと少しも苦しくない。幸い小生のかかりつけの消化器専門医も入院先の医者も上手な人で助かっている。
 胃潰瘍になぜなるか。胃酸が胃の内壁を消化して穴を開けてしまうため。こうなる原因は三つある。ストレス、生れつき胃酸が多い体質、細菌によるもの。細菌が原因というのは十年ほど前から一つの学説として医学界でいわれていたことで、最近はもう定説になっている。ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌が胃の中にいて、こやつがワザしているとのこと。日本人の成人の半数以上がこの菌を飼っているらしい。では日本人成人の半数以上が胃潰瘍患者かというとそうではない。では何が一番の要因かというと、やはりストレスということになる。強いストレスが集中的にかかると一晩で胃に穴が開くこともあるそうだ。小生の場合、リストラ失業としいうのが今回の発病の原因にまちがいない。非常に再発しやすいため極力ストレスのない生活をこころがける必要がある。
 夕食後に下血に気付いた。明日かかりつけの医者に診てもらえば 良いかもしれないが、出血が多いと生命にかかわるため急いで医者にかからねばならない。タクシーで市民病院の夜間救急外来へ行く。明日ただちに胃カメラ。その夜は救急外来のべッドで過ごす。
 当たり前のことだが、救急外来というのは一晩中実に様々な人がやって来る。意識不明で死にかけている怪我人。目薬がきれただけで来るおばさん。電話でいってあるやろ、なんでもういっぺん同じことをいわなあかん、そんなことしてるヒマがあるんやったらさっさと手当てせえ、といって看護婦に喧嘩ふっかけるおっさん。一番多いのは子供が頭を打ったというもの。
 救急車も何度も来る。救急車が到着するとまず、夜間受け付けのガードマンが救急車到着しました、と看護婦に知らせる。次に救急隊員が来てどこですかと聞く。何番と看護婦が指定したスペースに患者を乗せたストレッチャーを持ってくる。
 よく病院ものの映画なんかで救急車到着のシーンがある。救急車到着の知らせでピーンと緊張感が走り看護婦のまなじりがキリリと上がり医者の目がスッと細くなる。患者が到着するやいなやてきぱきと指示が飛び戦場のような雰囲気になる。
 あれはウソ。救急隊員が来たら看護婦は冷静に何番にお願い、といってから当直の医者に知らせに行く。医者は普通の顔で患者がストレッチャーからベッドに移されるのを見てる。その後はごく普通の患者に接するのと同様にしている。別に周囲は戦場にはならない。平然としたものである。案外本物のプロとはこういうものだろう。


(2003.5)

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