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とつぜんコラム No.37

雫石 鉄也





 最近ローラーシューズなるもの(本当の名称は知らない)が小学生たちのあいだではやっている。運動靴のかかとにローラーがついていてスケートのように滑走できる靴である。最初に見た時はびっくりした。なんでもない普通の地面を普通の運動靴を履いた子供がスーと移動している。おかしな歩き方をする子だなあ、と、よく見ると足を動かさずに移動している。忍術でも使ったのかと思った。それから、あちこちでトットットッと走ってスーと滑る子供を見かける。
 これ、大変に危険である。店内で使用禁止にしているスーパーもある。駅のホームで滑っている子を見たことも。小生は自分の子供には決してこんな靴は買い与えはしなかった。かかとにローラーがついているからちょっとした操作ミスで後頭部を強打して、命にかかわる大事故になる恐れがある。早々に禁止すべきだ。
 六本木ヒルズの事故以来各地の回転ドアが撤去されたり、回転スピードの調整がなされた。また指を切断する事故以来公園の回転遊具も撤去されている。もっと早くこういう対策が採られていれば、犠牲にならずにすんだ子もいただろう。どうも、だれかが犠牲にならなければしかるべき手はうたれないようである。小生が前の会社で組合の副委員長をやっていた時の話。第2工場と第3工場の間に道路があった。交通量が結構あって横断は少々危険なため、信号を設置するように警察に陳情しろと会社に要求した。会社も熱心に警察にかけ合ってくれた。しかし信号はまだついていない。信号をつけるには人通りが少ないとのこと。もしだれかが事故にあっていたら信号はついていただろう。
 それにしても、法で禁止されていなければ利潤をあげるため企業は何をしてもゆるされる、という自由主義社会の最も醜悪な象徴をあの靴に見る思いがする。あの靴を最初に考えた技術者はどういう思いで企画書をかいたのであろうか。これは面白いアイデアだ。これは売れるぞ。そう思って企画書を書き会社に提出したのだろう。会社も、これはいけると判断して商品化に踏み切ったのだろう。その結果として沢山の子供たちがあの靴を親にねだって買ってもらったわけ。この課程で、これは危険だ、と思う人はいなかったのだろうか。もし最初に考えた人がそう考えないとしたら、想像力の無い人、自分の行為によって人がどんな目にあうか考えがおよばない人だ。また危険とわかっていたが会社の仕事と割り切って商品化を進めたならば、その人は新型地雷を開発している兵器メーカーの技術者と同じ。核兵器を開発した科学者と同じということになる。
 この靴の開発者は企画書を会社に提出した夜、帰宅して夕食の席でかわいい子供とテーブルを囲み、愛する妻がつぐビールを心からおいしく飲んだだろうか。ひょとすると自分が生み出した商品によって、目の前の子供と同じ歳の子が後頭部を強打して植物人間と化すかも知れないというのに。

 

(2004.7)

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