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とつぜんコラム No.41

雫石 鉄也




 矢野徹氏が亡くなった。小生の考えでは、この度亡くなった矢野氏に加えて故福島正実氏、柴野拓美氏の三人が日本SF界にとっての最大の功労者であり恩人であろう。もしこの3先輩がいなければ現代の日本SF界は無かったか、たとえ有ったとしても違った形になっていただろう。矢野氏が亡くなり、福島氏は30年前に亡くなった。残った柴野氏の健康と長寿を切に願う。柴野さんいつまでもお元気で。
 矢野氏はむかし星群祭にも出席され、星群の会としても大変お世話になった大先輩の一人である。星群50号記念号にもお祝いのメッセージを寄稿され、星群の貴重なアドバイザーの一人でもあり何かと私たちのことを気にかけていただいた。
 矢野氏は若い女性SFファンが大好き。がんばっている女の子のSFファンを見ると本気で応援される。今から30年近い昔、最年少での星群入会の記録を持つ女子高校生がいた。彼女がSFを書いていると聞いた矢野氏は、書けたら見てあげようといわれた。彼女は「ブルーフライト」という見事な作品を書いて星群ノベルズに発表した。もちろん矢野氏の目にも触れた。作品の見事さと彼女の将来性を見抜いた矢野氏の尽力で「ブルーフライト」は星群ノベルズからSF宝石に転載。こうして現在日本の女流SFの大切な柱の1本菅浩江は矢野氏の尽力で誕生した。
 今はもう大昔、宇宙塵25周年の記念イベントが群馬県の草津温泉であった。私たち星群のメンバーも参加した。決まりごとのプログラムがあり、夕食も終わって参加者それぞれ思い思い部屋で宴会となった。一番大きな部屋の真ん中では矢野氏をはじめ小松左京、星新一といった大先輩がたが車座になって盛り上がっていらっしゃる。われわれ若いもんも、その周りでちびちび飲んでいた。こういう場で聞く先輩がたの話は講演などで聞くのとは違い、本音が聞けて非常に面白く楽しい時間を過ごしていた。気分良く酔いもまわってきたころ矢野氏が私たちを手招きした。「おい星群こっちに来ていしょに飲め」大先輩がたの輪に混ぜてもらって夜遅くまで飲んだ。その夜の宴会は私が経験した一番楽しい宴会だった。
 矢野徹氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 

(2004.11)

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