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とつぜんコラム No.47

雫石 鉄也




 大惨事だ。JR福知山線の脱線事故のこと。現場の最寄り駅の尼崎は小生が毎日通勤に使っている駅。今の会社は尼崎から徒歩だが、前の会社は事故車がオーバーランした伊丹で乗り降りした。伊丹工場に出社したあと吹田工場での会議に出席する時は伊丹から尼崎まで快速によく乗った。2年間、時間がずれていれば小生もあの事故に遭っていたかもしれない。
 事故の原因は今のところ不明だがスピードの出しすぎが大きな要因であったことは間違いなさそう。それで、誰が悪いのかということになるのだが、一概に制限速度を超えてカーブに進入した運転士が悪いとはいえない。マスコミは総じて、運転士をそういう運転をせざるをえない境遇に追い込んだJR西日本が悪いとしている。JR西日本の組織としての体質その物に根源的な欠陥がある。阪急との競争に勝ちたいがためになりふり構わず、スピードと列車の運行本数にこだわった。ダイヤの遅れは絶対許さない。遅れた運転士は「日勤教育」でたっぷりいじめる。と、マスコミは連日JR西日本の企業体質を追及している。「世論による袋叩き」とはこういうこと。雪印、三菱自動車、そしてJR西日本。不祥事、事故を起こした企業がこういう目にあうのは当然で、たっぷり糾弾して十分に反省してもらって再発防止に努めてもらわなくてはいけない。しかし、これらの企業が100%悪いのだろうか。小生は一概にそういい切れないと思う。例えば今回のJR西日本。確かにマスコミがいうようにこの大惨事の主犯はJR西日本で、いずれ司直の手で裁かれることだろう。だが、ここで考えてもらいたい。あなたは駅で電車が何分遅れたらイライラする?小生はせっかちなので5分も遅れるとイライラする。そしてそんな鉄道と時間通りに電車が走る鉄道が平行して走っていたらどちらを利用するだろうか?
 時代の流れは国営から民営。電電公社からNTTに、国鉄からJRに。親方日の丸だから大赤字をだして国民に迷惑をかける。だから民営化できるものはどんどん民営化しよう。こういう「時代の流れ」が今回の大惨事の主犯といえないだろうか。
「私鉄王国」といわれる関西で私鉄に勝たなくてはいけない。国鉄から民間企業になったのだから利潤をあげなくてはいけない。そのため「安全」はとりあえず横に置いて、電車のスピードアップ、超過密ダイヤ、乗務員には寸分のミスも許さない。これらはいわゆる「企業努力」で民間企業として当然のことをしたまで。民間企業だから自由競争の資本主義社会で利潤を追求しなくては株主にたいして背信行為となる。となると今回の脱線事故の真犯人は資本主義の競争原理ということになる。
 民間に移行できるものは民間へ。しかし小生はなんでも民営というのは反対だ。「官」のままにしておくべきものもある。小泉首相は郵政民営化に大きな情熱をかけているが、貯金と保険はともかく郵便は民営化すべきではない。国鉄もJRにすべきではなかった。国民の生活に不可欠なものは、ある程度赤字がでても国で経営すべきだ。民間企業になったのだから利潤を追求するのは当然。国鉄からJRになったのが今回の事故の原因といえる。とはいうものの国鉄時代も大惨事はたびたび起こしていたが。  

(2005.5)

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