昨年もいろいろ本を読んだ。面白い本もあったが面白くない本もあった。その中で印象に残ったものを5冊を紹介しよう。順位はつけていない。
生首に聞いてみろ 法月綸太郎 角川書店
高名な彫刻家が病死する。その娘をモデルにした石膏像が破損された。これは殺人予告なのか?彫刻についてのうんちくが興味深い。
物語のキーになるのはある種の彫刻の制作方法。二組の夫婦がからみあうドロドロとした人間関係が描かれる。殺人事件はむろん発生する。エンタティメントではこういうキャラの被害者はめずらしい。
荊の城 サラ・ウォーターズ 中村有希訳 東京創元社
ビクトリア朝が舞台。犯罪者一家に育てられたスリの少女スーは詐欺師「紳士」から、古城に変人の伯父と住むお嬢様モードの財産をだまし取る計画をもちかけられる。世間知らずの少女と世間の底辺で育った少女が苔むした薄暗いお城で出会う。なんだかアブナそうな話しだが、そのとおりアブないシーンもある。物語後半にはどんでん返しの大技も。
デセプション・ポイント ダン・ブラウン 越前敏弥訳 角川書店
ベストセラーになった「ダヴィンチ・コード」のダン・ブラウンの日本刊行3冊目。現職大統領と次期大統領候補の上院議員が激しい選挙戦を繰り広げている時、ある科学的大発見がなされた。地球の生命誕生の謎にせまるその大発見は、大統領選の行方を大きく左右するものだった。この小説はSFかなと思わせる。SFになるか、ならないかはネタバレになるのでここでは書かない。いかにもハリウッドが映画にしそう。
犬は勘定に入れません コニー・ウィリス 大森望訳 早川書房
前作「航路」もそうだったがウィリスはヒトを引きずりまわすのがお好きらしい。この作品でも主人公が19世紀と20世紀を行ったりきたりさせられる。しかもウィリスおばさんは読者も堪忍してくれません。ひきずりまわされてあちこちにちりばめられた謎にイライラさせられる。ただしそのイライラは苦痛ではなく快楽なんだからウィリスの術中にはまってしまう。
容疑者Xの献身 東野圭吾 文藝春秋
「このミス」などいろんなミステリーのランキングでトップをとったうえ直木賞までとってしまった。と、いうことはこの作品が昨年の日本のミステリーのトップと解釈していいのかな。確かに面白かった。アリバイ工作のトリックは思わぬ展開でびっくりさせられたが、この作品のウリである「純愛」の部分に不満が残る。主人公の数学者が、思いを寄せる女性を助けるため彼女が犯した殺人の隠蔽工作をする。なぜ数学者が女性をこんなにまでして助けるのか、いまいちよくわからない。彼と彼女はアパートの隣人で、彼は彼女が勤める弁当屋の常連客というだけ。ただの一目ぼれでこんなことするのだろうか疑問だ。
(2006.2)
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