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とつぜんコラム No.59

雫石 鉄也


 
 テレビの「開運!なんでも鑑定団」を観ている。10年以上前からやっている長寿番組だが、最近見始めた。この番組、知ってはいたがなぜか観なかった。日曜日に午後2時からのタイガースのデーゲームを観ようと思って、昼食後にチャンネルをあちこち回していたら偶然再放送を観た。なにげなく観ているとなかなか面白く、火曜日の本放送も観るようになった。
 この番組、大変に良い企画だと思う。ようは著名人のゲストも交え、一般の人が自分が持っている書画骨董など値打ちもんと思われるお宝(本人だけが思っている場合が多い)を専門家に鑑定してもらって、その価値を金額で表してもらう。企画の骨子はそれだけの番組だが、なかなか面白い。出演者がそのお宝を手に入れた経緯が興味深い。そのお宝をめぐってその人と家族知人との確執が垣間見えることもある。お宝が画面に大写しされるわけだが、小生の目で見て「こりゃあかんで。ニセもんや」「へえ、なかなかええ絵やないか。本もんちゃうか」と鑑定するのだが、それがはずれている時もあるし当たっている時もある。自分の審美眼に自信を持ったりなくしたりする。当たっていた時など「それ見てみい。ワシのゆうたとおりやろ」と家人に威張れるのも楽しい。
 お宝を紹介する時、その作品(と、思われる)の作者の紹介をしてくれる。コンパクトに画家や書家、陶芸家などいろんなジャンルの芸術家を紹介してくれるのだが、知ってる人物もいれば知らない人物もいる。これがなかなか面白い。覗き見的上品とはいえない興味と知的好奇心を満足させてくれる好企画の番組だといえる。
 で、いろんな人がいろんな物を持って鑑定依頼に番組に出るのだが、小生はとてもあんな番組に出る度胸はない。わが家にはお宝なんぞはないが、例えあったとしても自分に自信がない。
 テレビは人物を非常によく映し出す。タレントや芸能人はプロだから実物とは違う人物に映される技を身につけているが、テレビに出たことのない素人はその人が正直にそのまま映ってしまう。もし鑑定依頼品がニセ物だったら、「なんや、こんなしょうもないもん、わからへんのかアホ」と思う。本物だったら「へー本物か、そんな貴重なもん日本の財産やないか。こんなおっさんが個人で持っているより博物館か美術館に寄贈してみんなに見てもらうべきやないんか」と思う。人物と依頼品との相性が非常にむつかしい。ミスマッチの例として、西洋アンティークならラブホテル、刀剣、甲冑のたぐいなら暴力団の組長の自宅の応接間。印象派の絵画なら中小企業の社長室。猛禽類の木彫り、虎や龍の屏風なら田舎の土地成金の玄関なんぞに見えてしまう。
 ときどき、ああこの人ならこんな本物の芸術作品を所蔵してもおかしくないと思わせる人物が登場する。そして、ごくたまに、こんな名品はこの人にこそふさわしい。と思わせる人が登場する。この番組、品物の鑑定ではなく本当は人物の鑑定だったのではないだろうか。
 

(2006.5)

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